昆虫の嗅覚本能行動の中枢神経機構の研究
【研究分野】動物生理・代謝
【研究キーワード】
昆虫 / 本能行動 / 下行性介在神経 / 匂い / フェロモン / 脳 / フリップ・フロップ / 定位行動 / カイコガ / ジグザグ歩行 / 嗅覚 / 配偶行動
【研究成果の概要】
ある種の昆虫は、同種の雌パートナーに定位するとき雌が放出する性フェロモンの匂いを鍵刺激としてジグザグ歩行や飛翔を示す。この行動は、中枢神経系にプログラムされており、嗅覚刺激によって発現する本能的行動と考えられる。鱗翅目昆虫のカイコガでは、このジグザグ行動は脳と胸部運動系を結ぶ2種類の下行性介在神経がフェロモン刺激に対して示すフリップフロップ(FF)的な神経インパルスパターンによって制御されていることが示唆された。FFとは元来、電子回路を構成する記憶機能を持つ基本的な素子の動作を示すが、これと類似の動作特性がカイコガの中枢神経系で形成され、その活動がジグザグ行動を誘発する本能行動の制御と関連することが予想される。
本研究では、カイコガのFF神経情報の機能と形成メカニズムを神経生理学、形態学、行動学的手法によって解析し、本能行動の発現および制御機構の解明を行った。
1.行動:(1)風洞装置によるカイコガの歩行軌跡の解析、(2)胸部を拘束してジグザグ歩行を行わせる行動装置を考案し、行動を高速度撮影し、その画像を解析することによってジグザグ歩行やそれに伴うはばたき運動を解析した結果、このプログラムは歩行ばかりでなくはばたき運動も同時に制御する可能性が示唆された。
2.神経形態の同定:カイコガのFFや他の応答パターンは、下行性介在神経は腹髄神経索によって胸部運動系(細部神経節)に伝達される。コバルトなどの色素をVNCの断端から逆行性に取り込ませることにより、これらの下行性介在神経の脳内分布が明かになった。さらに、複数の鱗翅目昆虫においても類似の下行性介在神経が存在したことから、カイコガと類似の神経回路の存在が広く鱗翅目昆虫に存在することが示唆される。
3.生理学的特性:吸引電極により、FF応答と頸神経の応答を同時記録した結果、両者で活動パターンが同期することが判明した。これは、FF応答がジグザグ行動を制御することを示唆する一つの証拠である。また、これらの下行性介在神経は脳内のLALという特殊な領域間での相互抑制的な機構によりFF応答が形成される可能性がある。
【研究代表者】
【研究種目】一般研究(C)
【研究期間】1993 - 1994
【配分額】2,000千円 (直接経費: 2,000千円)