蛋白工学を用いた銅蛋白間の電子伝達機構の解析
【研究分野】応用微生物学・応用生物化学
【研究キーワード】
亜硝酸還元酵素 / 蛋白工学 / 部位特異的変異 / 脱窒 / 電子伝達 / 銅蛋白
【研究成果の概要】
活性汚泥から単離した脱窒菌Alcaligenes faecalis S-6株において、同菌の脱窒の一過程を担う亜硝酸還元系は、亜硝酸還元酵素(NIR)およびシュードアズリンという二つの銅蛋白によって構成されている。同様な銅蛋白による亜硝酸還元系は後になって微生物からカビにわたって広く分布することが明かとなってきた。しかしながら今までに蛋白の銅配位環境と蛋白としての機能の関係、さらには二つの銅蛋白の銅原子間でどのように受け渡しされるのかについては全く明らかになっていなかった。本研究では蛋白工学的に蛋白を改変しそれらの性質を調べることで銅蛋白の構造と機能および銅蛋白間の電子伝達機構を明らかにすることとした。まず、そのための前段階として大腸菌でのNIR遺伝子の発現の最適化を行った。その結果、改変した分泌シグナルをNIR遺伝子に連結し、lacプロモーターの制御下、25-30・Cの低温で培養することにより、1リッター当たり3mg程度のNIRを大腸菌ペリプラズムに分泌する系を確立することに成功した。この系を用いて、NIRがサブユニット当たり1原子ずつ保持しているタイプI銅、タイプII銅の銅原子配位座(リガンド)のうち、タイプI銅リガンドのMet150をGluに、タイプII銅リガンドのHis135をLysに改変した酵素を作製、精製した。Met150Glu改変体は予想どおりタイプI銅を欠失していたが、His135Lys改変体はタイプIIリガンドのうちの1つが変化しているにも関わらず、タイプI、タイプIIの両方の銅を結合していることが明らかになった。次に、これらの改変体の活性を低分子のメチルビオロジェンを電子供与体として用いて測定したところ、His135Lysでは全く活性が検出されない一方、Met150Glu改変体では、十分な亜硝酸還元活性が検出された。これらの結果から、NIRにおいてはタイプII銅が活性に直接的に関わることがはじめて直接的に明らかになった。また、シュードアズリンの銅の周辺に位置するLys残基を中性または酸性残基に変換したところ、Lys10およびLys38の改変により、NIRへの電子伝達能が大きく低下することが明らかになりつつあり、シュードアズリンの銅原子周辺が、NIRと直接的に相互作用していることが示唆された。現在、NIRに含まれるタイプI銅の役割および、シュードアズリンのLys改変体を用いた、NIRとシュードアズリンの相互作用様式の解析を進めている。
【研究代表者】
【研究種目】一般研究(C)
【研究期間】1993
【配分額】2,200千円 (直接経費: 2,200千円)