活動依存的カルシウム流入による競合的シナプス回路発達の共通原理の解明
【研究分野】神経科学一般
【研究キーワード】
シナプス回路 / シナプス刈込み / グルタミン酸受容体 / カルシウムイオン / シナプス / 脳 / 発達 / 小脳 / 大脳皮質 / バレル / カルシニューリン / 臨界期可塑性 / CaMキナーゼ
【研究成果の概要】
生まれたばかりの個体のシナプス回路は、過剰で重複の多い混線回路である。生後早期の発達過程において、環境刺激や経験・訓練・学習に伴うシナプスの使用状況や神経活動の強弱に応じて、競合的なシナプス回路の強化と除去が起こる。その結果、未熟なシナプス回路は機能的で正確な投射関係を備えたシナプス回路へとリファインされ、正常な脳機能の発現基盤が完成する。この発達過程を経ることにより、ヒトでは臨界期と呼ばれる年少期において、ほとんどの高次神経機能ー認知、言語、楽器演奏、スポーツ、知能、思考、性格、社会性などーが飛躍的に発達する。現在、シナプスに発現するグルタミン酸受容体の活性化とそれによるシナプス後側ニューロンへのカルシウム流入が、この活動依存的シナプス選別過程を制御していることがわかっている。しかし、カルシウム濃度上昇が、一体どのような分子細胞メカニズムを通してシナプス回路の強化と除去を制御しているかについては、ほとんど不明であった。本研究では、カルシウム依存的な活動依存機構とこれに対抗する機構とが拮抗してシナプス回路発達を制御するという作業仮説を立て、これを神経解剖学・神経生理学・発生工学などの手法を用いて個体レベルで検証することを目的とした。本研究の推進により、小脳ではP/Q型カルシウムチャネルが登上線維によるプルキンエ細胞支配の形成・維持を制御し、大脳ではNMDA型グルタミン酸受容体やその制御調節に関わるグルタミン酸トランスポーターが体性感覚系シナプス回路発達を制御することを明らかにした。また、平行線維によるプルキンエ細胞支配をGluD2-Cbln1-ニューレキシンによる分子間相互作用が媒介し、これがカルシウム依存的な形成・維持機構により促進される登上線維支配と拮抗していることも判明した。
【研究代表者】