素粒子ミュオンによる高エネルギー開殻分子構造の創出と新規スピン機能ユニットの開拓
【研究キーワード】
ラジカル / ミュオン科学 / 有機合成 / 結晶構造 / ミュオン / ミュオニウム / リン複素環 / 合成化学 / 素粒子科学 / ヘテロ元素 / 複素環化合物 / フッ素
【研究成果の概要】
本研究では、素粒子ミュオンを利用した高エネルギー開殻分子の創成を目的としている。令和3年度は、前年度に引き続いて新型コロナウイルスの影響でミュオンを用いた測定実験については遠隔条件で行ったが、次に示す成果を得ている。
1)ペリ位に導入したトリフルオロメチル基によって安定化された9-ホスファアントラセンにミュオニウム(=ミュオンと電子の複合体で軽水素同位体に相当)が付加した開殻種の構造同定を完了した。その構造は、プロトンの9分の1の質量をもつミュオンの高いゼロ点エネルギーのためにDFT最適化によって見積もられる水素付加体とは異なるが、その様式がこれまでに知られている有機分子のミュオニウム付加体とは全く別であることを明らかにした。すなわち、ペリ位のトリフルオロメチル基の立体効果がミュオンの高いゼロ点エネルギーによって打ち消され、一見するとペリ位が無置換の9-ホスファアントラセンのミュオニウム付加体と同一の構造となることがわかった。
2)リン複素環一重項ビラジカルである1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイルについて、4員環の炭素ラジカル中心にミュオニウムが付加した構造の同定を完了した。
3)新たな試みとして、チオカルボニル化合物のミュオニウム付加プロセスについて検討した。新規に合成したチオホルムアミドにミュオンを照射したところ、硫黄原子に選択的にミュオニウムが付加していることをDFT計算の結果と照合してほぼ確定した。その一方で、固体状態では2種類のラジカル種が生成することを予想外に見出した。また、環状チオケトンを幾つか合成し、それらから一つを選んで、固体状態でミュオン照射を行った場合においても、特に低温状態で2種類のラジカルが現れることを見出した。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(B)
【研究期間】2019-04-01 - 2023-03-31
【配分額】17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)