上下肢の機能分化からみた霊長類の運動適応
【研究分野】人類学(含生理人類学)
【研究キーワード】
霊長類 / ロコモーション / 形態 / 適応 / 運動解析 / 成長 / 二足歩行 / シミュレーション / 足根骨 / 大腿骨 / 筋線維 / 筋紡錘 / 上肢 / 下肢 / 機能分化
【研究成果の概要】
昨年度に引き続き総合研究を実施し、班会議を開催して研究成果の取りまとめを行った結果、以下の知見を得た。1)下肢において、静的収縮と同様、動的収縮においても筋線維伝導速度の計測が可能であること、但しその場合、関節角度と収縮レベルに関する情報が必要であることが明らかになった。2)現代人上腕骨と大腿骨の中央断面の材料力学的諸計数を比較したところ、その力学的環境の大きな差異にも拘わらず、両者の間に際だった特徴の差はみられなかった。3)ニホンザルのロコモーションの運動解析と床反力より、発達期には一歩ごとのばらつきが大きいが、すでに前後肢機能分化の特徴がみられる。4)ヒト、チンパンジー、コノハザル、ノドジロオマキザルの足部可動性をX線CTにより比較した結果、把握に伴う内反の際、ヒトでは距骨の内旋が優位に起こるが、これは二足歩行への特殊化と位置づけられる。5)ヒト、オランウータン、サルの大腰筋の筋線維組成を比較した結果、直立二足歩行者のヒトでは持久性に富む赤筋型が優位であるのに対して、樹上行動に長けるオランウータンやサルでは、瞬発力に富む白筋型であった。6)ニホンザルの第3中手骨、第3中足骨の形態の年齢変化を調べた結果、成長が停止するのはオスで7歳、メスで6歳であり、中足骨の方が中手骨よりも周育が大きい。これは後肢への体重配分が加齢とともに増加するためと考えられる。7)野生ニホンザルのロコモーションを観察した結果、年齢に拘わらず四足を用いての移動頻度が高いが、加齢とともにエネルギー消費の多い移動運動の頻度は下がる傾向にあった。8)床上歩行、ポール上水平・垂直移動時のニホンザルの3次元運動解析と筋電図から、床上とポール上水平歩行間に差は少なく、主として後肢が推進力を発揮しているが、垂直移動時には前後肢が等しく推進に関与していることがわかった。9)二足歩行の獲得における体型と姿勢の変化をコンピュータでシミュレーションしたところ、ヒトの祖先は二足歩行における体幹の動揺と関節の負担を減らすために体幹を直立させ、その後、上下肢比を小さくして移動効率を高めるように進化したと考えられる。
【研究代表者】