タンパク質分子の基準振動間のカップリングに基づく動的構造の解析
【研究分野】生物物理学
【研究キーワード】
分子動力学 / 内部座標 / 2面角 / エネルギー移動 / 非線形効果 / 434リプレッサー
【研究成果の概要】
多くの酵素で活性部位と補酵素の結合部位が遠く離れているといった事実が示すように、タンパク質の静的な構造からではその機能を理解できないことが多い。本研究ではタンパク質分子の基準振動の個々のモードの方向に初速度を与えた分子動力学により、タンパク質の複雑な動きを、基準振動という線形の範囲の運動を基礎としてそれを非線形の領域に拡張した視点から系統的に調べることを目的とする。
基準振動解析では変数の数が少なくなることから分子の立体構造を2面角のような内部座標を用いて記述することがよく行われている。そこで動力学計算もわれわれが開発してきたプログラム(FEDER/3)を用いて2面角座標系で行った。相同タンパク質である434Cro及び434リプレッサー、P22c2リプレッサーを対象としてそれぞれ約400個の基準振動のうちで振動数が200cm^<-1>より低いもの約300個すべての方向へ動力学を行った。温度が各モードあたり300K(分子全体では約0.7K)では40cm^<-1>より速い運動は基準振動から予想される振動数の調和振動となり、温度がより高くなると他のモードへエネルギーが散逸していく様が観察された。その際、振動数が大体2倍の基準振動にエネルギーが移りやすい傾向が見られた。40cm^<-1>より遅いモードを初期値とした動力学では、300Kにおいても、基準振動解析を行ったエネルギー極小構造とは別のエネルギー極小構造の周りの立体構造に構造が変化していく様が観測された。特に10cm^<-1>程度の遅いモードに対しては2通りの向きに動力学を行った結果、別々の異なる極小構造への遷移も観測された。さらにエネルギー極小化を行ったところ、異なる基準振動のトラジェクトリーから同一のエネルギー極小構造に移る現象が多数みられた。つまり近傍の極小構造の個数はそれほど多くなく434Croの場合は300Kで遷移したものは7つ、1500Kでも32個であった。このプロトコルによりタンパク質の多次元で複雑な構造空間の中で天然構造近傍のエネルギー極小構造を組織的に探索できることが示された。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
輪湖 博 | 早稲田大学 | 社会科学部 | 教授 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】1999 - 2000
【配分額】2,500千円 (直接経費: 2,500千円)