海洋における粒子態有機物の大規模な溶存化現象の微生物・地球化学的な支配機構
【研究分野】環境動態解析
【研究キーワード】
海洋 / 粒子状有機物 / 溶存有機物 / 微生物ループ / 物質循環 / 微生物群集構造 / 細胞外加水分解酵素 / 有機物分解
【研究成果の概要】
本研究では海洋における有機物の変質分解にかかわる微生物・地球化学的な過程を、野外調査、実験、モデルの3つのアプローチを複合的に組み合わせて、新たな観点から解明することを試みた。野外調査では、学術調査船白鳳丸KH-05-2次航海(平成17年8月1日〜9月16日)に参加し、西経160度に沿って、南緯10度から北緯55度までの縦断観測を行い、中部北太平洋の表層から深層における微生物諸パラメータの大規模南北断面を明らかにすることに成功した。また、中深層におけるロイシン取り込み速度の鉛直的・水平的な分布パターンの解析を進め、中層の細菌生産が高緯度海域と赤道海域に顕著な極大を示すことを明かにした。これにより、海洋の中層においては、沈降粒子→溶存有機物→浮遊性細菌という経を経て有機物の分解・無機化が進行するという本研究の仮説が、炭素フラックスの観点からみて矛盾なく説明できることが示されたのは大きな成果である。しかし、水深1、000m超の大深度においてみられた、複雑な南北分布パターンに関しては、細菌が消費する炭素のフラックスが、通常のモデルから推定される沈降粒子束を上回ることから、堆積物の巻き上げや移流による有機物の供給が、深層における有機物分布パターンに影響を及ぼしていた可能性が示唆された。実験的な研究としては、大槌湾におけるメソコスム実験を実施し、微生物と有機物の相互作用系の機構論的な解明を進めた。その結果、有機物分解の鍵となる微生物系統群の解明が大きく進展した。また、理論面では、微生物群集の相互作用(多様性)と物質循環を関連づける新たな数理モデルを構築し、それを用いた海洋物質循環機構の検討が進められた。以上の成果を総説や原著論文としてまとめるとともに国際学会などで発表した。また、一般むけのわかりやすい論文も出版した。
【研究代表者】