美術に即した文化的・国家的自己同一性の追求・形成の研究―シンガポールの場合
【研究分野】美術史
【研究キーワード】
アジア / 美術 / アイデンティティー / 近代 / 文化 / 国家 / シンガポール / 東南アジア
【研究成果の概要】
美術は、絵画・彫刻・建築・工芸を含むヨーロッパ的な概念である。近代に至るまで、アジアにおいては、この概念がなく、東アジアでは書画、南アジアでは彫刻、西アジアでは建築が造形芸術の中心をなし、その枠組をなしていた。美術概念の受容は、その意味で、近代化と一体であり、文化的・国家的アイデンティティーの形成と不即不離である。
絵画・彫刻班は、平成14年11月11日から16日に、建築班は、平成15年2月14日から21日ないし23日に、シンガポールとマレーにおいて概括的調査を行った。
前者の絵画・彫刻班は、シンガポール国立大学NUS博物館所蔵作品のうち、伝統中国絵画とインド・東南アジア彫刻を中心に、その調査・撮影を実施した。また、改装中であった亜州文明博物館エンプレス・プレイス本館については、ギャラリーの配置などを実地調査し、東アジアは日本・韓国美術を除く中国美術のみ、他は東南アジア・南アジア・西アジアの美術を対象とする、シンガポールにおけるアジア美術収集の国家的な方針の実態を把握することができた。また、新たな亜州文明博物館エンプレス・プレイス本館は、旧国会議事堂や最高裁判所に隣接する旧政府庁舎を改装したものであり、中国的かつヨーロッパ的な文化的アイデンティティーを基礎として、ASEANの中核都市たらんとする都市国家としてのアイデンティティーを築こうとしている点を読みとることができた。
後者の建築班は、シンガポール国立文書館などで資料収集に努めたほか、マラッカに赴き、オランダ・イギリス時代の建築物やマラヤ華人建築家の作品等の実地調査を行った。その結果、華人建築家の中国的表現などについて、新たな知見を得ることができた。
今後は、今回の研究成果を基礎として、東南アジアからアジア全域へと研究対象を拡大しつつ、現地調査を継続してゆく方針である。
【研究代表者】