強レーザー中の分子の第一原理シミュレーション
【研究分野】光工学・光量子科学
【研究キーワード】
アト秒科学 / 高強度場物理 / 第一原理計算 / クーロン爆発 / 高次高調波発生
【研究成果の概要】
2018年のノーベル物理学賞の受賞対象となったチャープパルス増幅の発明によって高強度のフェムト秒レーザーパルスが実現された。ノーベル物理学賞選考委員会は、その主要な応用の第一に「高強度場物理とアト秒科学」を挙げている。私の研究室では、これをさらに発展させるべく、高強度レーザーパルス中の原子・分子の振る舞いを理論計算するために、様々な第一原理計算手法を開発してきている。本研究では、高強度レーザー場中で、分子がイオン化し解離(クーロン爆発)する現象を研究した。
我々が開発した完全に一般的な時間依存多配置自己無撞着場法を用いて、高強度レーザーパルスで照射された水素分子の挙動を第一原理計算した。この手法では、多電子系に対する時間依存多配置自己無撞着場理論を一般化して、電子軌道と原子核の軌道関数を準備し、全波動関数を粒子配置関数の重ねあわせとして表す。その結果得られた核間距離の時間発展を見ると、1陽子軌道1電子配置の場合(核-電子相関が考慮されていない場合)には励起された分子の振動しか見られないが、4陽子軌道16電子配置の場合(核-電子相関が考慮されている場合)には、それに加えて、イオン化した後に陽子同士がクーロン反発で解離するクーロン爆発が見られ、実験と整合した正しい計算が出来ていることが分かった。
原子核の質量は電子の質量よりもはるかに大きいため、通常は古典力学的に取り扱われたりボルン・オッペンハイマー近似(電子と原子核の運動を分離して、それぞれの運動を表す近似法)が使われたりするが、上記の複雑な過程を正しく記述するにはそれらを超えた理論が必要であった。本研究の成果はそれを可能にした。
【研究代表者】
【研究種目】特別研究員奨励費
【研究期間】2018-04-25 - 2020-03-31
【配分額】1,500千円 (直接経費: 1,500千円)