酸化物誘電体のバンド計算プログラムの作製と誘電物性のシミュレーション
【研究分野】無機材料・物性
【研究キーワード】
第一原理バンド計算 / 全エネルギー計算 / 結晶構造 / 弾性定数 / Frozen phonon近似 / 誘電率 / 短縮Gauss基底 / Disercte variational Xα(DV-Xα)mcthod
【研究成果の概要】
近年、非経験量子化学計算による物性計算が可能となってきており、この手法によって材料を開発するための指針を与えられることが期待される。しかし、これらの手法で必要とする短縮Gauss基底関数は無機結晶では最適な基底関数が得られていない場合が多く、計算を困難にする一因となっている。本研究では、まず、Discrctc Variational Xα(DV-Xα)法により、クラスターの分子軌道計算を行い、得られた基底関数を基に最小二乗法によって短縮Gauss基底関数を求めた。次に、得られた基底関数を第一原理Hartree-Fockバンド計算のプログラムであるCrystal88を用いて、DV-Xα法で得られた基底関数の有用性について検討した。更に、結晶の全エネルギーを格子定数を変化させて計算する事で平衡格子定数と弾性定数を、Frozen phonon近似を用いる事で誘電率を計算した。
計算はMgO,CaO,NaClとTiO_2について行った。MgOの基底関数としてはPisaniら^<1)>、NaClについてはGordonら^<2)>の関数を用いた。また、DV-Xα法を用いて(MgO_6)^<10->クラスター原子基底関数を計算した後、最小二乗法で求めた短縮Gauss関数を用いてMgOについての計算を行った。
MgOの全エネルギーと単位格子体積の計算結果から、エネルギー最少の格子定数と体積弾性率はそれぞれ4.191Å、2.08×10^<11>Paであり、実測値の4.21Å、1.53×10^<11>Paと良い一致を示した。また、誘電率の計算値はは9.23となり、文献値9.77とよく一致している。NaClでは、格子定数、体積弾性率、誘電率はそれぞれ5.703Å.3.56×10^<10>Pa6.17となった(文献値:5.64Å,2.46×10^<10>Pa,5.62)。MgOの計算ではMgO結晶に最適化された基底関数を用いているのに対し、NaClでは分子の基底関数を用いているためにNaClでの計算値のずれが大きいと考えられる。
DV-Xα法で計算した原子軌道関数を用いて得られたMgOの全エネルギーはPisaniらの基底関数を使った計算結果よりも0.06%(0.176eV/molecule)大きかった。上と同様の計算を行った結果は格子定数、体積弾性率、誘電率は4.197 2.25×10^<11>Pa,8.0であり、体積弾性率を大きめに見積もるものの、実測値と良い一致を示した。
これらの結果から、第一原理バンド計算により、結晶構造、体積弾性率および誘電率を計算できた。また、DV-Xα法の基底関数は、第一近似としてこれら物性を計算することに応用できるが、より高い精度を必要とする場合には基底関数を精密化する必要であることが明らかになった。
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1994
【配分額】800千円 (直接経費: 800千円)