振動分光イノベーションへ向けた中赤外極短パルスコム光源の開発
【研究キーワード】
超短パルスレーザー / 中赤外波長域 / 光周波数コム / 振動分光
【研究成果の概要】
中赤外域は『分子の指紋領域』と呼ばれるように分子振動の共鳴線の宝庫である。そのため,分子の構造解析・同定・定量分析において最も重要な波長域といえる。ところが、これまで赤外分光法に用いられてきた熱光源は、広いスペクトルをもつ反面、指向性・収束性に乏しいため、微量分子の高感度検出や顕微計測など、近年高まる期待には応えられないでいる。この現状を打破すべく、本研究では、中赤外域で広いスペクトル・精密な周波数確度・短い時間幅・優れた空間コヒーレンスを有する中赤外周波数コム光源を開発する。
初年度となる本年度は、本研究の基盤となるCr:ZnSモード同期レーザーの開発を行った。レーザー共振器を設計・製作し、半導体カーボンナノチューブを可飽和吸収体とする受動モード同期発振を実現した。さらに、特殊な分散設計を施した誘電体多層膜ミラーを導入することにより、中心波長2.3ミクロンで光電場振動5サイクル以下(時間幅にして36フェムト秒)のパルス発生に成功した。その際、出力パルスエネルギー4.2ナノジュールを得た。
本研究で用いたカーボンナノチューブは、これまでファイバーレーザーなどに用いられてきたものと比べて大きな直径(約2.2ナノメートル)を有するため、波長2.3ミクロン付近に励起子に起因する共鳴吸収を示す。本研究では、Zスキャン法およびポンプ・プローブ分光法により、このカーボンナノチューブの可飽和吸収特性(飽和フルエンスおよび回復時間)を計測し、中赤外域で動作する高速かつ高感度な可飽和吸収素子としての高いポテンシャルを明らかにした。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(B)
【研究期間】2020-04-01 - 2023-03-31
【配分額】17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)