巨大誘電率をもつ有機半導体の光散乱法を用いた研究
【研究分野】応用物性
【研究キーワード】
有機電荷移動錯体 / 巨大誘電率 / 電流スイッチング効果 / スピン・パイエルス相 / 荷電ソリトンの運動 / ラマン散乱 / 赤外分光 / 1次元性 / 格子転移 / 分子エレクトロニクス / 巨大誘電応答 / ソリトンダイナミクス
【研究成果の概要】
ある種の有機半導体において、中性ーイオン性転移と呼ばれる分子の価数変化を伴う相転移をおこすことが知られている。この種の物質は、分子の価数不安定性が原因となり、電場に対して極めて特異な応答を示す。その例が巨大な誘電応答と電流スイッチング現象である。特に後者は分子素子実現へ向けての礎となる現象であり、十年来非常に注目を集めている。本研究では、これらの現象が1次元分子積層鎖上の積層欠陥(ソリトン)の運動ときわめて密接に関連していることを明らかにした。有機半導体の伝導特性と光物性の研究が、伝導体のそれに比べ著しく立ち遅れている現状の中で、半導性錯体の新機能発現の可能性を示しその基礎的知見の集積を行なった点でこの研究の意義があったと考えられる。以下、特に電流スイッチング現象について得られた知見をしるす。
(1)多種類の電荷移動錯体において非線形伝導が観測されたが、強い微分負性抵抗やそれに伴う電流スイッチング効果は、分子が二量体を組んだ低温相(スピン・パイエルス相と呼んでもよい)において顕著に観測される。
(2)線形な伝導度は低温相に入ると急激に減少するが、スイッチング現象はあたかもその減少分を回復するかのように発現する。
(3)スイッチングのオン状態の微視的な情報を得るため、ラマン散乱、赤外分光、光伝導などの光プロ-ブを用いて、オン状態を実験的に調べた。研究費は主に、ラマン散乱測定用装置の購入に使用された。この結果、低温相におけるスイッチオン状態では、スピンパイエルス秩序が一部こわされていることが明らかになった。
以上の知見から錯体のスイッチング状態では多量のソリトンが流れており、このソリトン電流によってあたかもスピンパイエルス秩序が一部破壊されているように見えることがわかった。
【研究代表者】
【研究種目】一般研究(C)
【研究期間】1989 - 1990
【配分額】2,400千円 (直接経費: 2,400千円)