分子シミュレーションで探る化学蓄熱の分子論的な律速過程と反応性向上への道
【研究キーワード】
モンテカルロ法 / 分子動力学法 / レアイベント / 化学蓄熱 / 分光計算 / 分子シミュレーション / 固気化学反応 / 律速過程
【研究成果の概要】
本課題は、化学蓄熱材として用いる代表的な固気化学反応の構造変化およびその律速過程を分子レベルで明らかにし、実用化への課題となっている低い反応性を改善する方法の提案を目指している。分子レベルで化学反応過程を理解するには、分子シミュレーションによる研究が有効であるが、これまでのシミュレーション手法では「時間スケールが多様な拡散」と「待ち時間は長いが瞬間的に起こる化学結合の組み換え」が複雑に絡み合った固気化学反応の構造変化を扱うことが困難であった。
本年度は、この固気化学反応の構造変化の問題の解決を目指して分子動力学法とモンテカルロ法を組み合わせたシミュレーション手法を提案した。この方法は、拡散や化学結合の組み換えなどの素過程の動力学的な情報を得ながらも系が熱力学的な平衡状態へ緩和する過程を模倣することが出来る。この手法を典型的な蓄熱/放熱過程である水酸化マグネシウムの脱水/酸化マグネシウムの水和過程に適用したところ、手法の計算効率性と系を記述するモデルポテンシャル(ReaxFF)に問題があることが判明した。前者は実在系への応用ではモンテカルロ計算において棄却確率が非常に高くなり系の緩和が妥当な計算時間で達成されないことが問題となった。また、後者ではモデルポテンシャルで得られた界面水の構造が第一原理計算のそれと大きく異なることが明らかとなった。
また、近年の実験的研究では分光技術を用いて蓄熱材の構造変化に関する知見を得ている。実験事実と対比させながら分子シミュレーション研究を実施するには、分光スペクトルの理論計算が有効であると考えた。そこで、本年度は分光シミュレーションのプログラム開発とテスト計算としてバルクおよび界面水の赤外、ラマン分光計算も実施した。これにより、固気化学反応過程における各状態の分光シミュレーションを実施する基礎が整った。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究
【研究期間】2021-04-01 - 2025-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)