遺伝性精神遅滞症遺伝子FMR1の解析を通して知る脳内行動発現ネットワーク機構
【研究分野】遺伝・ゲノム動態
【研究キーワード】
脆弱X症候群 / FMR1 / RNAi / 記憶障害 / 概日リズム / 性行動 / 神経細胞 / 精神遅滞症 / 記憶障害変異体 / 行動 / ショウジョウバエ
【研究成果の概要】
トリプレットリピート病の代表例である脆弱X症候群患者では脳の高次機能(特に可塑性)に直接関わることが確実視されている樹状突起上スパインの形態異常が見られる。これはFMR1遺伝子の機能喪失によると考えられているが、その分子機構は不明である。ショウジョウバエをモデル動物として用い、FMR1が位置する遺伝学的分子経路を明らかにするため、FMR1機能の変化が、どのように細胞形態レベルでの変化、そして個体の行動レベル(概日リズムと記憶障害)での変化に至らしめるかを検討した。以下の結果を得た。
1.生化学:ショウジョウバエdFMR1蛋白質が形成する複合体を精製し、この複合体にRNAi関連因子AGO2とDmp68、性行動関連因子Lingerer、そして光受容体形成関連因子Rasputinが含まれていることを明らかにした。
2.細胞形態:これら変異体を用いて神経・筋結合部位(NMJ)の形態を観察し、dFMR1変異体では神経末端の過成長が、またLingerer変異体では神経末端の萎縮が見られ、dFMR1-Lingerer二重変異体では野生型に近い形態を示した。
3.行動:匂い条件付けによるdFMR1変異体の学習記憶行動の解析を行い、(1)dFMR1変異体では短期記憶に顕著な障害があるが、長期記憶は正常であること、(2)学習記憶時のdFMR1遺伝子の発現不全により短期記憶の障害がおこること、(3)dFMR1ではドーパミンレベルが上昇していることが報告されているが、dFMR1同様ドーパミンレベルが上昇しているfmn変異体では非常に顕著な記憶障害が起こること、を見出した。一方、概日リズムの解析から、(4)AGO2欠損変異体では行動リズムの異常は見られないこと、(5)生物時計中枢細胞特異的プロモーターを用いてヒトFMR1を強制発現させると、長周期を示し,dFMR1を過剰発現した場合と同様に生物時計の周期を遅らせること、(6)ユビキタスに働くarmGAL4を用いて、ヒトhFMR1をFMR1欠失変異体に導入すると、短命化していた欠失変異体の寿命が改善され、約70%の個体の活動リズムが回復すること、(7)timeless-GAL4系統を用いて、ヒトhFMR1を欠失変異体に導入すると、70〜90%の個体の活動リズムが回復すること、を見出した。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
齋藤 実 | 東京都医学研究機構 | 東京都神経科学総合研究所 | 主任研究員 | (Kakenデータベース) |
石田 直理雄 | 産業技術総合研究所 | 生物機能工学研究部門 | グループ長 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(A)
【研究期間】2003 - 2005
【配分額】47,190千円 (直接経費: 36,300千円、間接経費: 10,890千円)