巻貝における左右二型の共存機構と系統進化
【研究分野】生態・環境
【研究キーワード】
左右 / 鏡像進化 / 頻度依存淘汰 / 系統進化 / 交尾行動 / 有肺類 / 巻貝 / 東南アジア / 進化 / 共存 / 系統 / 分子系統 / タイ
【研究成果の概要】
本研究の目的は、左巻と右巻の動的平衡を可能にする形質の機能と系統進化に焦点を絞り、右二型の共存機構と進化のプロセスを追究するための基礎試料を得ることにある。そのために、巻型頻度の動態調査を継続し、交尾頻度を実測することが課題である。分子系統解析により交尾器形態の進化プロセスを検証した。巻貝全体で左巻系統は、独立にくり返し進化した。ところが、9割強の属は右巻に固定している。この右への偏りは、A)鏡像変異に対する安定化淘汰、またはB)多数派有利の頻度依存淘汰により説明されてきた。しかし、仮説AとBは、互いに独立に進化した左右二型種群の存在を説明できない。本研究により、左右二型の共存を可能にする主因と考えられる右巻×左巻の交尾成功率を実測し、仮説Bとは逆の少数派有利の頻度依存淘汰を検証した。本研究成果の意義は、同一集団の左右二型が積極的に維持されるメカニズムを現場で検証し、左右二型の祖先から鏡像体のみの系統が進化した原因と考えられる、交尾器の形の役割をテストしたことにある。右巻×左巻の交尾は、内臓左右の反転ゆえに物理的に難しい。ゆえに、交尾の機会が制限される少数派の巻型が淘汰され、集団は単一の巻型に固定する。この頻度依存淘汰に対抗するメカニズムがなければ、左右二型は安定して共存できない。ところがこれまでの調査により、この一般原理に反する交尾行動の記録に成功した。すなわち、右巻×左巻の交尾を、右巻同士や左巻同士の交尾より、物理的に容易にするはずの交尾体位がくり返し確認された。こめ交尾体位においては、少数派有利の頻度依存淘汰が生じ、右巻と左巻の共存が可能になる。しかも、問題の交尾体位を可能にしている交尾器の進化プロセスを、分子系統解析により検証した。
【研究代表者】