昆虫交尾器で探る、左右非対称な構造と「利き手」の進化の関係
【研究キーワード】
ハサミムシ類 / 交尾器進化 / メカニクス / 左右性 / 種間変異 / 共進化 / 昆虫 / ボディプラン
【研究成果の概要】
2020年度から調査・解析を継続していたヒメハサミムシ属の研究については、2021年度中に論文にまとめ、誌上発表することができた。ヒメハサミムシNala lividipesのオスが、左右いずれか一方だけのペニスを使い続ける傾向(=個体レベルでの「利き」)を報告したこの論文は、Smithsonian Magazineでも紹介され、反響が大きかった。
「オスの利き手現象の進化」の一因として、対応するメス側構造との共進化が重要だと考えられる。これに関するコンピューターシミュレーションモデルを構築し、解析結果を誌上で発表した。同モデルでは、交尾の際にメスが直接的な利益(具体的には、オスからの精液による栄養分の供給)を得ることを想定しており、オスによる栄養分供給(婚姻贈呈)と、メスの側での移精を制限するような構造が共進化することが観察された。婚姻贈呈はハサミムシ類ではこれまで報告されていない。しかし、精液(精子)を一度に渡すことが困難な、細管状の精子貯蔵器官(受精嚢:メスの形質)と、それに直接挿入される「さらに細い」挿入器(オスの形質)の組み合わせは、ハサミムシ類でも広く観察されるものであり、メスが交尾によって得られる利益が、遺伝的なものに限定されている場合でも、婚姻贈呈が存在する場合と同様の共進化動態が駆動される可能性がある。(野外採集調査、とくに海外遠征の実施が難しい状況が今後も継続する可能性に備えるためにも)ハサミムシ類の状況により特化した状況にも対応すべく、更なるモデルの発展を計画している。
また、本研究の過程で、インドの研究者からのオファーを受け、同国のハサミムシ類の交尾器形態の進化に関しても共同研究が開始された。左右性の進化研究に適した種の選定をおこなうため、インド南部のハサミムシ類のスクリーニング調査が実施され、その中で発見された1未記載種を新種として記載し、論文発表した。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2019-04-01 - 2024-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)