哺乳類初期胚における遺伝子発現調節機構について
【研究分野】応用動物科学
【研究キーワード】
初期胚 / 遺伝子発現 / ポリA鎖 / 母性mRNA
【研究成果の概要】
本研究は、受精後の遺伝子発現開始の機構に、母性mRNAのpoly(A)鎖の伸長が関与しているという仮説を立て、それを明らかにすることを目的としたものである。
そこで受精後のマウス胚を3'-deoxadenosine(3'-dA)を加えた培地で培養し、その遺伝子発現への影響を調べることを計画した。3'-dAは、胚に取り込まれると、3'-dATPに代謝され、poly(A)鎖の伸長を阻害することが期待される。実際に2mMの濃度で3'-dAを培養液に加えることにより、受精後でのcyclin Aのpoly(A)鎖の伸長が阻害された。cyclin A mRNAは受精後にpoly(A)鎖が伸長し、それに伴ってタンパク質の合成が開始するが、3'-dAにより受精後のタンパク質合成も阻害された。この阻害が非特異的な代謝阻害によるものではないことは、[35S]methionineの取り込みを調べて、3'-dAが総タンパク質合成量に影響を及ばさなかったことから明らかとなった。
このような条件下で、3'-dAと共に培養した胚の遺伝子発現を受精後14時間にin vitro transcription法によって調べた。その結果、2mMの3'-dAによって胚の遺伝子発現はほぼ完全に抑制された。対照として用いた3'-dGではほとんど影響が見られなかった。これらの結果は、以下の可能性を強く示唆している。受精後において、まず遺伝子発現に関わる何らかの母性mRNAのpoly(A)鎖が伸張する。それによってタンパク質の翻訳が始まり、それが胚の遺伝子発現を開始させる。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
酒井 仙吉 | 東京大学 | 大学院・農学生命科学研究科 | 教授 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】1998 - 1999
【配分額】3,600千円 (直接経費: 3,600千円)