優劣性発現に関わる新規ジーンサイレンシング現象の分子的基盤
【研究分野】分子生物学
【研究キーワード】
自家不和合性 / S遺伝子 / 花粉因子 / 優劣性 / エピジェネティックス / ジーンサイレンシング
【研究成果の概要】
アブラナ科植物の自家不和合性における自他識別反応は、1遺伝子座上のS複対立遺伝子(S_1,S_2,-,S_n)によって支配されているが、植物体(2倍体)が有する2つのS複対立遺伝子間には、花粉側と雌ずい側で独立に共優性あるいは優劣性の関係が認められる。この内の花粉側で認められるS複対立遺伝子間の優劣性が、花粉側の認識物質SP11の発現レベルで制御されている可能性を見出した。そこで、本研究では、まずこの現象が普遍的なものであるかを確認するために、優劣関係にある2対のS複対立遺伝子を持つ10種類以上ものS遺伝子ヘテロ体についてSP11のmRNA量をノーザンブロット法あるいはinsituハイブリダイゼーション法によって解析したが、いずれの場合も劣性側のSP11の発現が完全に抑制されていることが明らかとなった。また、いくつかのS遺伝子間では、S_<40>>S_<60>>S_<44>>S_<29>と言った直線性の優劣関係が認められるが、この場合もこの優劣関係に呼応する形で、常に劣性側のSP11の発現が抑制されることが確認され、S複対立遺伝子の組み合わせにより抑制されるSP11が変化することも明らかとなった。さらに、このSP11遺伝子の発現制御が親の性の影響は全く受けないこと、さらに次世代には遺伝しない可逆的なものであることも確認された。次に、このSP11遺伝子の発現抑制の分子機構に迫るために、SP11ゲノム領域のメチル化レベルについて改良型bisulfite法などにより解析した。ゲノムのメチル化は、エピジェネティックな遺伝子発現抑制で広く認めらる現象であるが、本例においては抑制されている側のSP11のゲノム領域が特に高メチル化されていると言った傾向は認められなかった。以上の結果より、SP11遺伝子の発現抑制の分子機構は未だ不明であるものの、このSP11遺伝子の発現抑制を介した優劣性発現機構は、これまでに報告例のない新規のエピジェネティックスの例であることが強く示唆された。
【研究代表者】
【研究種目】萌芽研究
【研究期間】2002
【配分額】2,700千円 (直接経費: 2,700千円)