線虫C.エレガンスの化学走性とその可塑性の分子機構の解明
【研究分野】分子生物学
【研究キーワード】
線虫 / C.elegans / let-60 / 神経系 / 揮発性誘引物質 / Ras-MAPキナーゼ系 / 嗅覚 / 化学走性 / 環状ヌクレオチド依存性チャネル / 可塑性 / 嗅覚抑圧
【研究成果の概要】
線虫の化学走性とその可塑性についての研究を行った。平成11年度の本研究では、線虫のRas-MAPキナーゼ信号伝達系に異常のある突然変異体が揮発性物質への化学走性に異常を示すことを見いだした。Ras-MAPキナーゼシグナル伝達系は多くの真核生物で細胞の増殖や分化を制御することがよく知られている。一方、成熟した神経系におけるこのシグナル伝達系の機能が最近注目されているが、十分な理解には至っていない。線虫C.elegansのRasであるlet-60の機能欠失型変異、活性化型変異のいずれもが匂い物質に対する化学走性に欠損を示した。Rasの下流のMAPキナーゼ系の各因子の変異によっても同様の欠損が見られた。また、let-60の活性化型変異は下流のMAPキナーゼ系の因子の機能低下型変異によって抑圧された。ヒートショックプロモーターや細胞特異的プロモーターによるlet-60の発現実験により、発生の過程ではなく、成虫の嗅覚神経でRasが機能することが明らかとなった。また、活性化型MAPキナーゼに対する抗体を用いた組織染色により、匂い刺激により嗅覚神経でMAPキナーゼが活性化されることがわかった。この活性化は、匂い刺激後10秒という短時間で起こった。さらに、このMAPキナーゼの活性化は匂い刺激の受容に関わるGタンパク質ODR-3、サイクリックヌクレオチド依存チャネルTAX-2/TAX-4、電位感受性カルシウムチャネルUNC-2の各欠損変異では起こらなかった。これらのことから、Ras-MAPキナーゼ系はおそらく嗅覚神経の電気的興奮によって活性化され、嗅覚神経の機能に必須の役割を果たすものと考えられる。以上の結果は線虫のRasの神経系における働きを同定した始めての例である。また、あらゆる生物を通じて嗅覚におけるRas-MAPKの機能を示した最初の結果である。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
石原 健 | 国立遺伝学研究所 | 構造遺伝学研究センター | 助手 | (Kakenデータベース) |
國友 博文 | 東京大学 | 遺伝子実験施設 | 助手 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】1999 - 2000
【配分額】3,800千円 (直接経費: 3,800千円)