新しい欠電子性遷移金属カルコゲニド錯体の創出と機能
【研究分野】無機化学
【研究キーワード】
モリブデン / 鉄 / スルフィド / クラスター / 炭素-硫黄結合切断 / イオンスプレーマススペクトル / タングステン / タンタル / 銅 / スルフィド錯体 / セレンド錯体 / チオラート錯体 / ペンタメチルシクロペンタジェニル
【研究成果の概要】
これまでの研究で、チオラートや末端スルフィドをもつ種々の単核モリブデン錯体および単核ダングステン錯体が得られたことにより、これらを構成ユニットとする興味深い異核金属クラスターやポリマーの構築が可能となった。例えば、鉄(II)錯体との組み合わせでは、(PPh_4)[Cp^*Mo(S)_3]とFeCl_2をTHF中で反応させることにより(PPh_4)[Cp^*Mo(S)_3(FeCl)]および(PPh_4)[Cp^*Mo(S)_3(FeCl)_2]を単離した。一方、鉄(III)クロリドはCp^*Mo(SCMe_3)_3の炭素-硫黄結合切断を誘起し、Mo_2Fe_2S_4キュバン骨格をもつCp^*_2Mo_2Fe_2S_4Cl_2を与えることを見いだした。このキュバン型クラスターのMo_2Fe_2部分は金属間結合を有するが、56結合電子系でelectron-preciseな60電子系よりも4電子少ないために常磁性を示す。さらに、鉄原子上にクロリド配位子をもつCp^*_2Mo_2Fe_2S_4Cl_2を無水Li_2S_2と反応させることにより、キュバン骨格3個が環状に連結した化合物[Cp^*_2Mo_2Fe_2S_4]_3(μ-S_4)を高収率で得た。キュバン間ではS_4(2-)配位子が鉄原子を架橋している。キュバン骨格が環化三量化することによって、各キュバン骨格内の鉄-鉄結合が切断され、代わりにキュバン間に鉄-鉄結合が生成する。トリキュバンクラスター[Cp^*_2Mo_2Fe_2S_4]_3(μ-S_4)のMo_2Fe_2部分は60電子の電子飽和系で反磁性となる。この巨大クラスター[Cp^*_2Mo_2Fe_2S_4]_3(μ-S_4)は分子サイズが大きくなるにも拘わらずCp^*_2Mo_2Fe_2S_4Cl_2よりも溶解度が高く、トルエンにも易溶でである。[Cp^*_2Mo_2Fe_2S_4]_3(μ-S_4)のTHF溶液に微量の酢酸を加えてイオンスプレーマスを測定すると、プロトンが1個(または2個)付いたカチオン種(ジカチオン種)として観測された。また、Cp^*_2Mo_2Fe_2S_4Cl_2では-0.88V(E1/2 vs SCE)に可逆な酸化還元波が見られるのに対し、トリキュバンクラスターでは0.69,0.26,-0.11Vに3本の可逆波が現れる。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
川口 博之 | 名古屋大学 | 大学院理学研究科 | 助手 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(A)
【研究期間】1995 - 1997
【配分額】5,300千円 (直接経費: 5,300千円)