物理化学に立脚した長期蓄熱固体の創出と学理
【研究キーワード】
長期蓄熱固体 / 相転移物質 / 第一原理計算 / 統計熱力学 / 外部刺激応答性 / 蓄熱錯体
【研究成果の概要】
長期蓄熱固体の実現に向けて、固相において一次相転移を示す錯体の設計および合成を行った。具体的には、スピン転移サイトとなるFeIIとオクタシアノレニウム錯体[ReV(CN)8]3-、3-シアノピリジンを構築素子として用いた新規FeReオクタシアノ錯体を合成した。単結晶構造解析により、FeIIとReVがシアノ基で架橋された2次元シートが層状に積層した構造を有し、その層間にはセシウムイオンが存在することを明らかにした。磁化率の温度変化からは、このFeRe錯体が120 K付近および160 K付近の2か所で段階的にスピンクロスオーバーを示し、各転移において温度ヒステリシスを有することを明らかにした。また、メスバウアー分光を用いて、高温相、中間相、低温相における鉄イオンの電子状態およびスピン状態を明らかにし、結晶構造との比較から2種類存在する鉄イオンサイトが段階的にスピン転移することを示した。さらに、圧力、光に対する応答性を確認するため、圧力印加および光照射磁化率測定を実施した。その結果、圧力印加に伴い転移温度は高温側へシフトし、0.5 GPa程度の圧力印加により、室温までシフトすることを見出した。光照射実験では、1.8 Kにおいて可視光照射することで、低スピン状態(S = 0)であったFeIIサイトが高スピン状態(S = 2)へと変化し、この光照射相が10 Kまで安定に存在することを明らかにした。一方、NiII、ヘキサシアノ鉄[FeIII(CN)6]3-、サイクラムを構築素子として、一次元鎖状NiFe錯体を合成した。本錯体は、降温過程では284 Kにおいて高温相NiII(S = 1)-FeIII(S = 1/2)から低温相NiIII(S = 1/2)-FeII(S = 0)へ相転移し、昇温過程では312 Kにおいて低温相から高温相へ相転移するため、室温において双安定性を示すことが明らかになった。室温双安定性を示す固体物質であることに加えて、圧力、光、脱水・水和による外部刺激により、電荷状態および相転移挙動が変化することを見出している。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(A)
【研究期間】2020-04-01 - 2024-03-31
【配分額】44,200千円 (直接経費: 34,000千円、間接経費: 10,200千円)