階層的数値モデルによる金星大気重力波の励起、伝播、散逸過程の解明
【研究キーワード】
大気重力波 / 金星 / パラメタリゼーション / データ同化 / 観測システムシミュレーション実験
【研究成果の概要】
大気重力波は、運動量やエネルギーを輸送、再分配し、惑星大気において重要な働きを担う。本課題では、階層的な数値モデルを用いて、金星大気の重力波の諸過程を包括的に解明することが目標である。2020年度は、金星探査機「あかつき」および「Venus Express」の電波掩蔽観測で明らかにされた雲層下部の温度構造が、金星大気大循環モデルで整合的に再現されていたため、この成因の解析を中心に行った。また、雲層下部には惑星規模の大気重力波である赤道ケルビン波の存在が観測的に示唆されていて、それと関連した雲量変動も観測されている。そこで、金星大気大循環モデルに簡易版の雲物理過程を導入して、赤道ケルビン波と雲量の変動を調べられる枠組みの構築を目指した。さらに熱潮汐波と細かいスケールの大気重力波の相互作用を調べるために、T639L260(1920×960×260格子点)の超高解像度数値実験への拡張を行い、スピンアップ計算を繰り返した。
赤道ケルビン波は雲層上端にもその存在が示唆されており、スーパーローテーションの風速変動に関わると考えられている。一方で、我々の金星大気大循環モデルでは、この波をこれまで再現できていない。そこで、データ同化技術を用いて、赤道ケルビン波の観測が衛星観測等で得られた際に、これを同化によって金星大気大循環モデル内に再現可能かどうかについて、観測システムシミュレーション実験を行った。その結果、高度70km付近の風速観測が6時間毎にあれば, 赤道ケルビン波が再現可能であることがわかった。本成果は、未だあかつき観測によって赤道ケルビン波が明瞭に観測された時期はないものの、仮に紫外線カメラでこれを観測することができれば、雲追跡で導出できる風速の同化によって、金星大気大循環モデル内に赤道ケルビン波を十分に再現可能であることを示唆している。
【研究代表者】