自己組織化臨界系のダイナミクスと共形場理論
【研究分野】素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理
【研究キーワード】
自己組織化 / 臨界現象 / 非平衡定常状態 / 相転移 / 相関関係 / 場の理論 / 代数操作 / 密度ゆらぎ
【研究成果の概要】
自己組織化臨界現象(self-organized criticality)は近年になって注目を集めつつある分野である。その特徴は、(1)外界と物質やエネルギーをやり取りする解放系である。(2)固有の長さのスケールを持たない臨界状態が力学的に安定である.(3)ほとんど任意の初期状態から出発しても、最終的には上の臨界点に到達する.等であり、「臨界点は不安定」という従来の統計物理の常識を覆す著しい性質を備えている。本研究は、従来の計算機シミュレーションに基づく現象論的理解に代わって、共形場理論等で開発された代数的手法を「自己組織臨界現象」に応用することを目的とした。特に、状態分布・時間空間的相関について定量的な予言を行うことに重点を置いた。
具体的には asymmetric exclusion model という離散状態のモデルを題材として、微視的状態のアンサンブル平均上で理論を展開し、系の性質を調べることにした。このモデルは、多数の粒子が、一次元の chain(格子点)の上を、互いに排他的に、一方向に向かって動く stochastic な系であり、細いチューブの中を移動する微粒子系や、高速道路の自動車の動きを単純化したものとも考えられる。
場の理論では、時間と空間を対等に扱うのが自然である。このモデルでも、本来の設定では定常状態での計算は空間一次元、時間なしの系であるが、これを空間0次元、時間1次元の系、すなわち量子力学系として考察すればよいのではないかと考えた。すると、物理量は、対応する演算子の期待値として求められるであろう。実際、この目論見は正しく、粒子がいる状態への射影子Fと、いない状態への射影子Eとを用意し、FE=F+Eという非自明な代数関係を置くことによって、定常状態でのあらゆる相関関係は、代数的操作で厳密に求められることがわかった。さらに、系のサイズが漸近的に大きくなった時の bulk の性質を調べた。その結果、入口・出口での境界条件(粒子流速度)のわずかな変化が、中心付近の粒子の density や current などの変化を引き起こすこと、すなわち相転移の現象が確かに見られることがわかった。ところが、境界より十分内側の領域では、微視的には非常に相関の強い規則に従っているにもかかわらず、密度ゆらぎの相関は消えてしまうことも示され、普通の平衡統計系の相転移とはメカニズムが全く異質なことが分かった。
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1993 - 1994
【配分額】800千円 (直接経費: 800千円)