時間分解共鳴軟X線散乱によるフォノンとゆらぎのダイナミクスの研究
【研究キーワード】
光誘起相転移ダイナミクス / 共鳴軟X線散乱 / X線分光 / スピンダイナミクス / 強相関電子系 / 電子線回折 / スピン・軌道揺らぎ / 量子スピン軌道液体 / 光誘起ダイナミクス / フォノン
【研究成果の概要】
強相関電子系物質の電子構造のダイナミクスの研究を目的として、放射光X線を用いた時間分解型の共鳴軟X線散乱や電子線回折測定を行い、光照射・光誘起相転移に伴う構造と電子状態変化のダイナミクスに関する研究を行った。
本年度は主としてBa3CuSb2O9に関する研究を行った。Ba3CuSb2O9はCuサイトの軌道とスピンの揺らぎに興味がもたれる物質である。この軌道とスピンの揺らぎと酸素に入ったホールの関係性を共鳴軟X線散乱測定を用いて明らかにした。Ba3CuSb2O9には六方晶と斜方晶の2相が存在することが知られているが、酸素ホールはゆらぎの大きな六方晶相試料のみで観測される。Cu L吸収端を用いた光誘起ダイナミクス測定において、酸素ホールが入った六方晶相試料において、約6GHzのコヒーレント振動が観測されることを明らかにした。このコヒーレント振動の時間スケールは、この物質の持つスピン軌道ゆらぎの持つ時間スケールと一致する。一方、軌道ゆらぎのない斜方晶相試料のダイナミクスには振動が全く観測されなかった。
また、重い電子系Yb(Al1-xMnx)B4の電子状態に関する研究を行った。Mn 2p内殻を用いたX線吸収分光により、ドープされたMnサイトの電子相関がMnOなどの2価の酸化物と同程度であることを確認した。このことは遍歴系の化合物内の遷移金属の電子状態としては非常に意外な結果である。一方で、同じMn 2p内殻を用いた光電子分光測定からは、Mn 3d軌道が、BサイトおよびYb サイトのバンドとよく混成することで、やはり非常に遍歴的になっており、近藤効果による非磁性化が起こっていることが示唆された。この遷移金属サイトと希土類サイトのユニークな階層的な混成状態は、Yb(Al1-xMnx)B4における比較的高い反強磁性転移温度を持つ近藤半導体相の出現と密接に結びついていると考えられる。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2018-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)