量子宇宙論におけるトポロジー
【研究分野】素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理
【研究キーワード】
量子 / 宇宙論 / 位相 / コンパクト / 宇宙 / タイヒミュラー / 特異点 / コンパクト一様宇宙 / ビアンキ分類 / ブラックホール / 量子重力 / 一般化されたアフィン長 / トポロジー / 骨子重力
【研究成果の概要】
1)一様でコンパクトな宇宙
一様な宇宙とのビアンキ分類は、標準的な事項であるが、これ迄は空間の局所的な性質にのみ着目して分類をしていた。私は当時大学院学生で現在慶応大学理工学部助手の古池君と、現在学術振興会特別研究員の谷本両君と共に一様でコンパクトな宇宙の大域的分類を行い、その力学を明らかにした。その方法としてサ-ストンによる3次元幾何学を若干一般化したものを用い、3次元双曲空間以外について完全に分類しきった。力学的自由度を局所曲率に関するものと、大域的なタイヒミュラー変形の自由度にわけて考え、総て数え上げた。(論文1)コンパクトな宇宙の時間発展を記述する為に、更に条件を付け加える必要があることが分り、タイヒミュラーパラメタの時間発展をアインシュタイン方程式の解を用いて表すことに成功した。(論文2)
最後に、一様姓を保持する変換により基本領域を、固定されたタイヒミュラーパラメターを持つ基本領域にマップすることにより力学的自由度を総て計量に含ませることができた。これにより局所曲率と、大域的なタイヒミュラー変形の自由度の両方を記述するハミルトン形式が可能になった。(論文3および谷本正幸氏の博士論文)
以上のことが達成されたので、一様でコンパクトな宇宙の力学の全容が明らかにされた。これは言うならば、Ryan-Shapleyによる教科書"Homogenous Universe"(Priceton University Press)の大域構造を考慮に入れやものが完成したことになる。この応用としては、例えば、量子宇宙のミニスーパースペースモデルの研究も可能になった。これは、一様宇宙論の発展とも捉えられるが、私が平成2年度から5年度の科学研究費(課題番号02640232)による、(2-1)次元重力の研究を一次元上げる方向の発展ともみなせる。別の応用としては、3次元ブラックホールの量子力学がある。
2)量子重力における特異点の解消
古典相対論における特異点にたいする進んだ理解では、任意の因果的曲線に対して、一般化されたアフィン長を定義して、それが有限のうちに因果的曲線が時空の外に出てしまうときに、時空は特異であるという。私は、一般化されたアフィン長をスピン接続と4脚場で表し、その量子力学的な期待値をとることによって、ゲージ理論におけるウィルソンループと類似のものを定義し、特異点にたいする量子力学的なプローブとすることを提案した。簡単な例として、(2-1)次元ブラックホールに適用して、ガウス型の波動関数の場合に、特異点が解消する事を示した。これは特異点の近くで、加速度の量子揺らぎが大きくなる為であると理解できる。(論文4)一方、江戸川大学の小田一郎氏と協力して、(3-1)次元ブラックホールの中を量子化するというミニスーパースペースモデルをうまく作り、ウィーラードウィット方程式を立てて、量子ブラックホールをモデル化することができた。その解に対して、一般化されたアフィン長を計算して同様の結果を得た。(論文6)同じ方法で、コ-シ-地平を調べて、量子力学的な「宇宙検閲仮説」を検証しようと試みた。
更に、ホーキング輻射を同じミニスーパースペースモデルで調べて、富松氏と同様の結果を得た。同氏はブラックホールの外を量子化したのであるから、全く違う方法で量子化したにも係わらず同様の結果を得た点に興味が持たれる。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
石原 秀樹 | 東京工業大学 | 理学部 | 助教授 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】一般研究(C)
【研究期間】1993 - 1995
【配分額】1,400千円 (直接経費: 1,400千円)