蒸着水溶液ガラスの構造とダイナミクス
【研究分野】物性一般(含基礎論)
【研究キーワード】
ガラス / 水溶液 / 低エネルギー励起 / 中性子散乱 / 水素結合 / 疎水性水和 / 水 / 中距離密度揺らぎ / アニール効果
【研究成果の概要】
不規則系物理の未解明問題の一つであるガラスの低エネルギー励起の起源を明らかにするため,水および水溶液ガラスの中性子散乱と低温熱容量を測定した。溶質には水に良く溶けるCD_3OHとほとんど溶けない非極性気体のXeおよびSF_6をとりあげた。CD_3OHは水素が1個足りないのでネットワークを壊す働きを,XeおよびSF_6は疎水性水和効果により水が籠状の水素結合ネットワークを形成するのを促進することが期待される。CD_3OH水溶液を普通に冷却したのでは結晶化してしまうし,非極性気体は元々水にほとんど溶解しないので,水溶液ガラス作成には我々がこれまでに開発してきた低温蒸着法を用いた。
まず,本研究の溶媒にあたる水のガラス(蒸着アモルファス氷)とSF_6水溶液ガラスの中性子回折実験および中性子小角散乱実験を行った。蒸着直後の試料をガラス転移より少し低い温度である120K付近でアニールすることにより,平均密度が減少するとともに,0.1Å^<-1>程度の中距離密度揺らぎが減少することが分かった。次に,3つの溶質の蒸着水溶液ガラス(数種の濃度について)の中性子非弾性散乱を測定した。CD_3OHの添加は低エネルギー励起強度を増大させること,XeとSF_6の添加は低エネルギー励起強度を減少させることが分かった(この傾向は溶質濃度が高いほど顕著になる)。また,アニールにより全ての試料で低エネルギー励起強度が減少することが明らかになった。以上の全ての結果を総合することにより,水素結合系ネットワークガラスの低エネルギー励起が水素結合の部分的切断から生じるナノスケールの構造の乱れ,歪みによって生じることが明らかになった。
以上の成果は,現時点で,5つの国際誌に発表済みである。また,ガラスや水の関係の8つの国際会議(国外4,国内4)で報告したが,いずれの会議でも高い評価を得ている。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2001 - 2002
【配分額】3,700千円 (直接経費: 3,700千円)