高機能薄膜の分光学的研究
【研究分野】固体物性Ⅰ(光物性・半導体・誘電体)
【研究キーワード】
新機能材料 / BEDT-TTF塩 / 酸化チタン / 表面電子状態
【研究成果の概要】
本年度は、新機能材料の設計と試作評価、及び基礎物性の解明を目指し以下の研究を行った。
1. BEDT-TTF(ET)系ドナー分子を構成要素として用いた交互積層型電荷移動錯体である(ET)(CIMeTCNQ)の合成を行った。このET系交互積層型電荷移動錯体は、従来型の一次元性の強い錯体とは対照的にETに特徴的なside-by-side相互作用により格子の二量化が抑制されるため、イオン性錯体がキュリー常磁性を示し、ラジカルスピンの自由度が生き残るという特徴をもつ。この物質の近赤外-可視領域の光学吸収スペクトルの圧力依存性の測定を行い、中性-イオン性転移を起こすことを発見した。
2. 低温まで安定な金属状態を得ることができるBETS-X_1X_2TCNQ(X_1,X_2=Br,CI)錯体の柱状結晶の作成に成功し、その極低温高圧物性に関する系統的研究を行った。(BETS)_2(Br_2TCNQ)では14Kで金属-絶縁体転移を起こし、転移点以下ではバンド構造が半導体的に変化することがわかった。
3. 光触媒である酸化チタン(TiO_2)の触媒反応下での表面電子状態を調べるために、水蒸気雰囲気中紫外線照射下で氷分解反応が起こっているTiO_2表面の非線型光学応答の測定を行った。紫外線照射によって、第二高調波(SH)光の強度が約2倍増大することがわかった。また、SH光強度の試料方位角依存性の形は紫外線照射前後で変化しないことから、紫外線照射中の表面の波動関数の形は照射前と同じであり、紫外線照射によってできた表面の酸素欠陥が、表面電子状態の占有状態と非占有状態間の光学遷移を増大させていることがわかった。
【研究代表者】