不整合格子系有機超伝導体における異常金属相と超伝導相の研究
【研究分野】機能材料・デバイス
【研究キーワード】
不整合格子 / 有機超伝導体 / 有効質量 / 強相関電子系 / フェルミ面
【研究成果の概要】
MDT-TSFのヨウ素錯体は、有機ドナー分子と無機アニオン分子が不整合格子を組む有機超伝導体である。組成が(MDT-TSF)(I_3)_<0.422>であるため電荷移動量は通常の0.5価よりも少ない0.422価である。シュブニコフ・ドハース振動で観測されたサイクロトロン軌道は、バンド計算から予測される二つの閉軌道のみであり、不整合アニオンポテンシャルによるフェルミ面の再構成が観測された同型構造を有する(MDT-TSF)(AuI_2)_<0.436>とは大きく異なる。これは電子が不整合アニオン格子の周期ポテンシャルを摂動的に感じていない、より綺麗な電子系である、ことを意味している。超伝導転移温度(T_c)が高いほど状態密度は小さく、有効サイクロトロン質量は大きくなるという傾向が得られた。結晶構造が同型であることを考慮すると、有効質量の増大は電子間相互作用によると考えられる。しかし、T_c決定する因子としてアニオンによる周期ポテンシャルと電子間相互作用のどちらが支配的であるかは明らかではない[Phys.Rev.B73,094513(2006)]。超伝導転移温度と有効質量の関係が他の有機超伝導体でも現れているかを明らかにするために、κ型のBEDT-TTF塩とBETS塩の裸のサイクロトロン質量(バンド質量)を計算した。実験から決められた有効質量とバンド質量の比は、T_cが高いものほど大きくなる結果を得た。これはMDT-TSF系超伝導体と同じである。高いT_cを有する有機超伝導体の開発には、電子間相互作用の大きい「強相関電子系」を実現する必要があるという結論を得た[Phys.Rev.B74,212502(2006)]。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究(B)
【研究期間】2005 - 2006
【配分額】3,600千円 (直接経費: 3,600千円)