離散化した超対称ゲージ理論に基づく量子重力の探求
【研究キーワード】
超対称性 / 格子ゲージ理論 / 数値計算 / 超弦理論
【研究成果の概要】
本年度は、球面上に定義されたN=(2,2)超対称ヤン・ミルズ理論の数値計算を実行し、その結果を受けて行った理論的な考察から、離散化されたN=(2,2)超対称ヤン・ミルズ理論に、これまで見逃されていた新たな構造を発見した。
前年度の研究によって、背景時空が持つ真空の電荷を制御する理論的な方法が確立した。予備的に行った粗い格子上での数値計算では、理論が持つ対称性が数値誤差の範囲内で保たれていることが示唆され、手持ちのプログラムが正しく機能していることが確かめられた。
そこで我々は、格子をより細かく区切り、連続極限に外挿可能な精度での数値計算を行った。ところが、予想に反して、連続極限に近づくに従って、理論の予言と矛盾する結果が得られるようになった。これは、格子理論が持つ何か重要な構造を見落としている可能性を示唆する結果である。
そこで我々は、グラフ理論の手法を用いて、離散化されたN=(2,2)超対称ヤン・ミルズ理論のスペクトル構造を詳細に調べた。この理論は、超対称性の特性を利用することで、いわゆる鞍点法によって分配関数が厳密に計算できるという特性がある。今回の解析によって、鞍点まわりの構造は、グラフ理論に登場する入射行列と呼ばれる行列のスペクトルで規定されていることが明らかになった。結果として、この理論の分配関数は、鞍点まわりに必ずフェルミオンのゼロモードが生じるために、その処理をしない限り分配関数そのものが定義不可能になってしまうことが明らかになった。このゼロモードは鞍点の直上でしか顕在化しないため、数値計算では認識されないが、連続極限に近づくにつれてその影響が大きくなる。これが数値計算が破綻した原因と考えられる。これは、連続理論における解析でも見逃されていた事象であり、今後、他の超対称ゲージ理論を数値的に解析する際には常に考慮に入れなければいけない特性である。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2020-04-01 - 2024-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)