回転とカイラリティの誘起する新奇物性現象の探索
【研究キーワード】
高密度物質 / 強磁場 / クォーク物質 / スカーミオン / スカーミオン結晶 / 相転移 / 回転系 / スピン / ハドロン物質 / エネルギー運動量テンソル / 相対論的流体方程式 / カイラリティ / 電磁場中のフェルミオン / カイラル磁気効果 / カシミア効果 / カイラル物質 / 相対論的回転 / 量子異常
【研究成果の概要】
本年度は強い磁場中の高密度物質の性質について精力的に研究を展開した。このような物質は、例えば中性子星深部に存在しており、中性子星の観測データを説明するためにも必要不可欠な研究である。また物性系でも同じ対称性を持つ類似のセットアップを考えることができるため、普遍的な問題設定である。
強い相互作用の基礎理論であるQCDではクォークは3種類のカラーを持っているが、理論的な取り扱いを簡単化するため、しばしばカラー数を無限大にした仮想的な世界で計算をする。そこではパイ中間子に代表されるメソンが支配的な自由度であり、バリオンはパイ中間子のソリトンすなわちスカーミオンとして実現される。本研究では磁場中のスカーミオン、およびスカーミオン結晶の性質を調べた。
磁場中では回転対称性が失われるため、通常のスカーミオンに使われているヘッジホッグ型の解を仮定することができず、数値的に高度な変分問題を扱う必要がある。そこで我々は2次元有限要素法を用いて、磁場中のスカーミオンの変形を定量的に調べた。その結果、スカーミオンの回りのパイ中間子の分布は、土星の輪のように広がっていくがその振幅がすぐに減衰してしまうため、実際にはそのような円盤状の形状は物理量には表れないことが分かった。
しかしこの結果は1つのスカーミオンに対するものであり、我々はスカーミオンを2次元結晶的に並べれば円盤状の構造が相転移を引き起こすのではないかと考えた。こうしたスカーミオン結晶は原子核物理学では、カラー数が無限大の世界で高密度物質を記述する方法として長らく知られているものである。詳細な計算によって、磁場を強くしていくと、円盤状に広がった構造が繋がって、一様な分布すなわちパイオンドメインウォールへと相転移することを見出した。2つの異なるトポロジー的な配位が磁場を介してどのようにつながっているか明らかにした本研究の意義は大きいと考える。
【研究代表者】
【研究種目】挑戦的研究(萌芽)
【研究期間】2019-06-28 - 2023-03-31
【配分額】4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)