水素結合ネットワーク構造に基づく蛋白質内プロトン移動の予測
【研究キーワード】
水素結合 / ネットワーク / プロトン移動 / QM/MM法 / 分子動力学法 / 光合成 / アクアポリン / 光化学系II
【研究成果の概要】
プロトン移動の実例を集めるため,植物や藻類の光合成において水を分解し酸素を発生する反応を触媒する蛋白質である光化学系IIに着目し,次のことを明らかにした.これらの成果はすべて国際誌に論文として発表済みである.
■1)酸素発生反応に伴って最初に放出されるプロトン放出機構を水輸送膜蛋白質アクアポリンと比較した.光化学系IIでは,蛋白質内部に結合している少数の水分子のゆらぎが他の水分子に比べて特異的に小さく,それらの水分子により高効率なプロトン輸送を可能にする経路が形成されていることがわかった.■2)酸素発生反応に伴って2,3番目に放出される2つのプロトン放出経路に関わる重要なアミノ残基の変異体について解析することで,プロトン放出機構を特定した.■3)光化学系IIで起こるプロトン共役電子移動過程について調べた.プロトン移動を促進すると指摘されている「低障壁水素結合」が,電子移動をも促進していることをはじめて示し,その機構も明らかにした.■4)触媒部位の錯体を構成するCa原子が①周辺の水素結合ネットワークの形状を保つ役割,②反応中のプロトン移動を促進する役割,③正常に電子移動するための電位を調整する役割,の3つを担っていることを明らかにした.■5)触媒部位の錯体を構成するMn原子に配位している水分子(W1, W2)とCaに配位している水分子(W3, W4)の酸解離定数(pKa)を算出した.蛋白質中では近くの酸性アミノ酸側鎖(D1-Asp61)により,W1が特異的に脱プロトン化,すなわちプロトン移動を起こしやすいことを明らかにした.
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(B)
【研究期間】2018-04-01 - 2022-03-31
【配分額】17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)