物質中の量子電磁力学:ディラック電子系・ワイルフェルミオン系物質の動的応答
【研究キーワード】
ディラック電子系 / ワイル半金属 / 量子電磁力学 / 反磁性 / 輸送現象 / 熱電効果 / 分子性固体 / ノーダルライン半金属 / 有機導体 / 電磁双対性 / 動的応答 / コンダクタンスの量子化 / 核磁気共鳴 / ワイルフェルミオン系 / 電磁的双対性 / ゲージ不変性 / 軌道磁化率 / ナローギャップ半導体 / 誘電率
【研究成果の概要】
分子性固体α-(BETS)2I3は、100K程度のバンドギャップをもつ二次元ディラック電子系である。この物質の磁化率、電気伝導度、スピン格子緩和時間などの実験データ全てを包括する基礎理論として「物質中の量子電磁力学」を提案し、この理論が予言する軌道磁化率と電気伝導度の間の電磁双対性が確かに成り立っていることを明らかにした。また、この物質のバンドギャップの起源はスピン軌道相互作用であり、トポロジカルな量であるスピンに依存したベリー曲率が生じることが指摘されている。このような場合にはスピンホール効果や磁場中のスピン伝導度など、スピン流が関与した物理量にベリー曲率の寄与が典型的に現れることを示し、α-(BETS)2I3のスピンホール伝導度の大きさはPt に匹敵する大きなものとなる可能性を指摘した。
ノーダルライン半金属HMTSF-TCNQはディラック電子系関連物質であり、α-(BETS)2Iと同様に大きな軌道反磁性を示す。この物質の軌道磁化率を評価し、不純物散乱およびノーダルラインの変形を考慮した計算によって、実験値を定量的に再現することに成功した。さらに、このようなノーダルライン半金属の薄膜では大きなゼーベック係数が現れるとともに、熱伝導度の一部の寄与を大きく抑制できることを提案し、10 程度の無次元熱電指数が実現される可能性を指摘した。
また、ねじれた二層グラフェンにおける温度に比例する抵抗(プランキアン散逸)やワイル半金属におけるウィーデマン-フランツ則の破れの問題と関連して、輸送現象と熱電効果の研究を行った。その結果、プランキアン散逸とウムクラップ散乱の関係や半金属におけるゼーベック係数の増大などに関する新たな知見を得た。
その他、科研費研究会「分子性導体に着目した電気伝導・熱応答の研究会」をオンラインで開催し、現状を整理するとともに活発な議論の場を提供した。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
松浦 弘泰 | 東京大学 | 大学院理学系研究科(理学部) | 助教 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2018-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)