反転対称性の破れた磁性体における非線形応答の理論
【研究キーワード】
スピン流 / 光起電効果 / 量子磁性体 / スピントロニクス / シフト流 / 非線形応答 / トポロジカル絶縁体 / 軌道流 / 非線形光学効果 / 軌道自由度
【研究成果の概要】
本年度は、1マグノン過程による光誘起スピン流の解析を引き続き行った。まず、昨年度導出した公式を拡張し、任意の模型に適応できる非線形スピン流の公式を導出した。この公式は、任意のcolinearな磁気秩序に対して適応できる公式となっており、物質に則した模型における計算に適している。
続いて、非線形スピン流の実験にむけて候補物質を探索した。上で導出した公式を用いて、イジング異方性のあるCrハライド系の光誘起スピン流を計算した。そして、2層Crハライドの有効模型において、昨年発見した2バンド過程(2つのマグノン・バンドを介した過程)によるスピン流が生じることを確認した。この系のスピン流密度はトイ・モデルを用いた先行研究の予測よりも大きい。さらに、このスピン流は反強磁性秩序状態のみで生じ、強磁性相では見られないこと、磁気異方性や磁場を用いてマグノンの寿命を制御することでスピン流の強度を制御できることを見出した。これらの研究により、光によるスピン流の整流効果の存在と候補物質が明らかとなった。
一方で、光誘起スピン流などにおける角運動量の非保存性や散逸の影響については、ほとんど理解されていない。この問題を解決するため、1次元スピン鎖の光誘起スピン流を対象として、境界におけるスピン角運動量の蓄積を計算するコードを作成した。
さらに、ファンデルワールス物質の積層構造の一種であるグラフェンのモアレ超構造でにおける光起電効果と関連した電子格子冷却率の理論研究を行った。具体的には、昨年度行ったフラッドバンドの理論研究を拡張して、モアレ超構造の多バンド効果を考慮したモデルを立てた。そして、パーセル効果によるバンド間散乱の増幅効果を考慮した電子格子冷却率の公式を導出した。
最後に、モアレ超構造の電気伝導におけるパーセル効果の影響を評価し、40K程度の高温までフェルミ液体的挙動が見られることを指摘した。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究
【研究期間】2019-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)