分子性導体薄膜におけるテラヘルツ光を用いたフォノン励起光誘起相転移
【研究分野】物性Ⅰ
【研究キーワード】
光誘起相転移 / フォノン励起 / テラヘルツ光 / 分子性導体 / 薄膜
【研究成果の概要】
本研究の目的は、光誘起相転移における電子-格子相互作用の寄与を直接観測することによって、光誘起相転移のメカニズムを解明することである。具体的には、電子-格子相互作用が顕著である分子性導体を対象とし、フォノンモードに対応するテラヘルツ(THz)光を照射し、系をフォノン励起した時の電子物性の変化を測定する。また、ここで、分子性導体における線形THz分光測定を行い、分子性導体の物性研究において未開拓であるTHz領域の分光特性を明らかにする。以上の結果により、光誘起相転移における協力的相互作用や発現条件を解明する。また、フォノン励起による新規光誘起相転移の発現を狙う。
具体的な対象として、2次元伝導体κ-BEDT-TTF塩を選んだ。κ-BEDT-TTF塩は、圧力や組成により反強磁性モット絶縁体相や超伝導相などと相が変化する系として大変注目されている。また、わずかな電子-格子相互作用の違いにより相変化が起こるため、光誘起相転移の研究対象として有用である。これまでに、κ-BEDT-TTF塩の大面積単結晶薄膜試料の作製および未解明であるTHz領域の分光測定を行った。
THz分光測定に必要な大面積薄膜試料の作製条件を見出し、径2mm程度のこれまでにない大型試料作製に成功した。また、THz分光測定に適する基板の種類を特定した。以上の方法は、K_BEDT-TTF塩だけでなく他の分子性導体のTHz分光測定に応用できる。このように、THz分光測定における分子性導体試料作製法を確立した。
次に、THz時間領域分光法を用い、κ-BEDT-TTF塩の線形THz分光測定を行った。温度依存性、偏光依存性を測定し、THz領域のスペクトル構造を明らかにし、超伝導ギャップ構造は透過スペクトルには現れないことを確認した。これは、κ-BEDT-TTF塩の超伝導状態がd波超伝導であることを示唆する結果である。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究(B)
【研究期間】2012
【配分額】4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)