確率解析とその微分作用素の解析への応用
【研究分野】数学一般(含確率論・統計数学)
【研究キーワード】
ポアンカレ上半平面 / ラプラシアン / ブラウン運動 / セルバーグ跡公式 / 指数型ウィナー汎関数 / ベッセル過程 / ウイシャート過程 / リーマン対称空間 / 拡散過程 / レヴィの定理 / ピットマンの定理
【研究成果の概要】
ポアンカレ上半平面(双曲平面)上のラプラシアンに対応する拡散過程である,上半平面上のブラウン運動を与える確率微分方程式は具体的に解くことができ,ウィナー汎関数としての明示的な表示をもつ.本研究においてはこの事実の拡張として,上半平面上のブラウン運動の正規直交枠束への水平持ち上げもまた,ウィナー汎関数としての表示をもつことを示した.この表示をもとに,微分形式に作用するラプラシアンに対する熱核の確率論的な表現を与えて,上半平面のその等距離変換群の双曲的部分群による商空間として与えられるコンパクトなリーマン面上における,微分形式上のセルバーグ跡公式を証明した.調和解析を用いない,解析的または幾何学的な証明となっている.また,次元を2と限っているために跡公式も極めて具体的な形となっている.
一般次元の場合への拡張に関する研究を現在継続中である.2次元の場合は補助的なブラウン運動を導入することによって,水平持ち上げの回転部分をうまく表現することができたことが成功の要因と思われるが,多次元の場合にこれに相当する表現が見つかっていない.今後の課題としたい.この部分が突破できると,これまでの研究の基礎となっているマッキーンの考え方に従ってセルバーグ跡公式の証明ができると考えている.
上半平面上の解析に確率論を応用する際,幾何ブラウン運動を時間に関して積分して得られる指数型ウィナー汎関数が現れる.同じ汎関数が数理ファイナンスの理論やランダム媒質中の拡散過程の研究に現れるため,現在でも研究が続いている.海外共同研究者のヨール教授と共同で,これまでに知られている研究成果および応用をまとめ,また解析的な立場から研究成果を整理して発表した.
【研究代表者】