数理生態学に現れる自由境界問題と関連する非線形拡散方程式の研究
【研究キーワード】
自由境界問題 / 反応拡散方程式 / 比較定理 / 解の漸近挙動 / 数理生態学 / 解の形状 / spreading / 漸近挙動 / 双安定反応項 / 非線形拡散
【研究成果の概要】
反応拡散方程式に対する自由境界問題は、外来生物の侵入現象をモデルに、生物の個体数密度と生息領域の変化を定式化した数理生態学由来の問題であり、活発に研究されている分野である。とくに興味深いのは、時間無限大となるにつれて、自由境界で囲まれた領域が空間全体に拡大し、密度関数が反応項の正値安定平衡点に広義一様収束するような spreading解の漸近解析である。 本研究では正値双安定項と呼ばれる非線形項を伴う問題を取り扱った。この非線形項は二つの正値安定平衡点を持つ関数であり、各安定平衡点に対応する二種類のspreading解をもたらす。空間一次元の場合、spreading解の中には段丘状のプロファイルを持つテラス解と呼ばれるものがあり、時間の経過とともに下層レベルでは小さい方の安定平衡値に近づき、上層レベルでは大きい方の安定平衡値に近づくこと、下層レベルの先端の拡大速度(=自由境界の拡大速度)と上層レベルの先端の拡大速度は異なることが示されていた。
前年度の研究では高次元空間における自由境界問題を球対称領域に限定、松澤寛氏(神奈川大学)、兼子裕大氏(日本女子大学)との共同研究の結果、下層レベルの拡大速度や解形状は小さい正値平衡点に対応する semi-wave 問題の解が漸近評価を与えること、上層レベルの拡大速度や漸近形状は二つの平衡点を結ぶ進行波解が漸近評価を与えることが調べられた。本年度の目標は一般の状況で解の漸近挙動を解析することである。一方、どんな初期条件の下でも、spreading解については時間の経過とともに自由境界は球面に近づくことが知られていた。したがって、解のプロファイルも球対称関数に漸近収束することが予想される。その証明には、比較原理が有効であるが、優解や劣解を繰り返し構成する、という精妙な解析が必要であり、まだ全体の証明には至っていない。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2019-04-01 - 2023-03-31
【配分額】1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)