放射性炭素年代で紐解く北西太平洋における溶存有機物の動きと機能
【研究キーワード】
海水 / 溶存有機物 / 炭素循環 / 放射性炭素 / 環境変動 / 加速器質量分析
【研究成果の概要】
本研究では、北西部北太平洋及びその縁辺海域において、海水中の溶存有機物の放射性炭素(DOC-14)同位体比から算出される年代を定量し、溶存有機物の濃度分布の情報に、その動態のとなる時間の情報を加えたマップを作成することを第一の目的としている。加えて、2000年代より継続している時系列観測の結果を踏まえ、海水中DOC-14同位体比の近年(概ね過去15年)における変化傾向の有無を検討し、その変化の要因の解析を第二の目的としている。
本研究の主軸となる時系列観測点である、北西北太平洋亜寒帯域の観測点K2(北緯46.9度、東経160.0度)における観測では、2021年度までに解析した最近(2019年)の観測データを、2000年代の結果と比較することにより、DOC-14の変化の傾向を世界で初めて明らかにした。
観測点K2の深層(1,500m以深)におけるDOC-14同位体比(Delta C-14値)は-480±8 ‰に収束しており、2006年の同深度での値(-488±8‰)と有意な差はなかった。この観測点の深層におけるDOC濃度は37±1 マイクロモル/kgで、DOC濃度とDelta C-14値との関係は、他の海域で見られる深層水で見られる関係と一致した。このことは、北西太平洋のDOC-14同位体比は、全球レベルでのDOCの深層循環に伴う濃度減少の結果を表していると考えられた。表層から中層におけるDOC-14同位体比は、いずれの観測年においても、海洋表層での生物活動によって新たに生産される「現代の」DOCと、全球規模で循環する「古い」DOCの二成分混合モデルで概ね説明できた。ただし、中層における「古い」DOCの濃度は、2019年よりも2006年の方が高かった。北太平洋の中層を水平移動するDOCの存在が浮き彫りとなり、その輸送フラックスは時間変動することが示唆された。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
脇田 昌英 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 | 地球環境部門(むつ研究所) | 研究員 | (Kakenデータベース) |
小川 浩史 | 東京大学 | 大気海洋研究所 | 教授 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(B)
【研究期間】2019-04-01 - 2023-03-31
【配分額】15,210千円 (直接経費: 11,700千円、間接経費: 3,510千円)