21世紀型システムの研究(法と政策)ヨーロッパ統合モデルの射程
【研究分野】政治学
【研究キーワード】
EU / EC / ヨーロッパ統合 / グローバル化 / 国際的人権保障
【研究成果の概要】
欧州統合の進展は、その積極・消極両方の側面を顕在化させてきた.まず,積極的側面としては,従来の地域統合においては考えられなかったほどの,EC法の拘束力及びその実効性担保の為の法理論が形成され,法による統合の一つの有力なモデルを提示することに成功したこと,直前まで発足が危ぶまれた経済通貨同盟の実現にも成功したこと、それによりEC内部の単一市場形成の完成に大きく近づいたこと等を指摘できる.
しかし,その反面において,EC法の拘束力が強化されるに従い,特に加盟国の国内法との関係において,EC法の民主的正統性が強く要求されるようになった.例えば,EC法令制定過程における「欧州市民」の不在が批判され,他方でマーストリヒト条件により明文規定された「欧州連合市民権」の概念も,実施主体である加盟国側の根強い抵抗と加盟国民自身の「欧州市民」としての自覚の稀薄さにより,確かな実体を持つに至っていないことが指摘されている.他方で,実質的な民主制の実現との関連において,基本権保障の見地から,欧州統合の正統性を強化しようとする動きがあることが注目される.既に80年代から欧州議会を中心として基本権条項を含む欧州連合「憲法」制定論があったが,近時,今後の東へのEU拡大を前に,EUレヴェルでの基本権憲章制定の動きが現実化してきた.オーストリアにおける極右政党参加政権の成立に対する,EU側の厳しい反応もこのような文脈において理解される必要があろう。
このような欧州統合の動きは,翻って他の地域にとっても決して無関係ではなく,国家の枠を超えた市民の民主的参加,ピノチェト事件に見るような国際政治における人権価値の重要化等,21世紀型システムの構想に大きな示唆を与えるものと思われる.但し,いずれの問題についても,今後のより堀り下げた学際的分析が必要であり,将来の特定領域研究の課題としたい。
【研究代表者】