美的言説の政治性に関する比較思想史的研究
【研究分野】美学(含芸術諸学)
【研究キーワード】
美 / 悲劇 / 危機 / 革命 / 社会 / 批判 / 近代性 / 国民国家 / 法 / 表象 / 決断 / 総合性 / ゴシック / 表現主義 / 崇高 / 象徴主義 / 日本浪漫派
【研究成果の概要】
18世紀から19世紀にかけて、西ヨーロッパにおいて近代の枠組みが形成されようとしたとき、言説の秩序も大幅な再編に晒された。美に関する観念と言説は、その代表的なものである。しかしその言説は、西ヨーロッパの内部においてもその近代性の形成の相違に応じて多種多様な形をとっている。本研究は、ドイツ語圏、フランス圏、イギリス圏の美的言説を、近代の政治的枠組みとの関連において比較考察し、近代像の正確な獲得を目指した。
主な考察の対象となったのは以下の3点である。一つに、近代の枠組みが遅く形作られたドイツ語圏では、その遅延の回復という課題が「社会」をめぐる言説と美的言説との格闘として展開された。19世紀前半のロマン主義的言説と19世紀後半における社会科学という相異なる言説にその具体的展開を跡づけることができた。二つに、イギリスにおけるフランス革命受容を通じた美的思考と保守思想の形成との関連を、革命の視覚的イメージの形成などの検討によって精密化できた。三つに、20世紀前半の全体主義化のなかで近代主義への批判的言説として展開された美的思考の現在的意味を、シュミットやベンヤミンの思想の検討を通じて深化することができた。
その結果、研究全体としては、美的言説が近代的言説の編成においていわば結節点の役割を演じていることを確認することができた。同時に美的言説の政治性という主題は、「近代の起源にかかわる言説」という問題であるばかりではなく、現在進行形の問題として、その探求は今後も継続を要求する課題であることを確認しておきたい。
【研究代表者】