江戸後期の文化・芸能におけるパトロネージュ構造の解明:吉原を中心に
【研究キーワード】
パトロネージュ / 縮緬絵 / 声曲 / 和獨對譯字林 / 近世文学 / ちりめん絵 / 工芸品 / パリ万博 / 数学モデル / コメ澱粉粒 / 偏光 / 複屈折 / 消光十字 / 吉原 / 浮世絵 / 文芸 / 社会階層 / パトロン / 琴・三味線 / 大名 / 豪商 / 豪農 / 科学的分析 / 3次元蛍光光度分析 / 蛍光エックス線分析 / 摺物 / 江戸 / 文化 / 和独辞書
【研究成果の概要】
安政大地震直後(1858年頃)に作成された5枚続きの遊女絵が,工芸品的な精緻さを持つ「ちりめん絵」に加工されているのを,2020年に発見した.2021年度に3回にわたって研究集会を開催,さらに,ちりめん絵と技術的に共通性のある擬革紙制作工房を見学し,ちりめん絵の作成法に関して考察を重ねた.ちりめん絵を大別すると,(1) 幕末にパリ万博に出品されたような精緻なもの,(2) 明治に入り既存の板木を転用し,色数を少なくして摺られた絵を「ちりめん絵」に加工した質の落ちるもの,ならびに,(3) 新たに絵を描き,これを「ちりめん絵」にして輸出用にしたものの3種類に分けられることが明らかとなった.精緻なちりめん絵は,元絵を8回にわたり徐々に縮小して作成している.
ちりめん絵の作成プロセスは,座標返還の組み合わによる数学的モデルで説明できることが可能であることが明らかになった.すなわち,x および y 軸方向へのα倍縮小,角度θの回転,x 軸および y 軸回りの回転である.
平安時代から,パトロンが関与するような紙の利用にあっては,表面を平滑にし筆の運びや印刷の仕上がりを良くするためにコメ澱粉粒の添加が,紙漉きの際に行われてきた.版本や浮世絵に加工された紙において,コメの存在を確認することは,従来は顕微鏡によって行われてきたが,識別には習熟を伴う.コメ澱粉粒子が結晶構造として球晶であり複屈折を示すことに注目し,透過偏光のみならず反射偏光においても消光十字を示すであろうとの仮説のもと,コメ澱粉粒の存在を確認する新しい技術の開発を試みている.
明治10年における,足立の在村武士(郷士)によるパトロネージュとしての,日本で最初の和独辞書『和獨對譯字林』の刊行の経緯として,校訂者の選出の状況や売り捌きに関する過程が,研究協力者である足立区立郷土博物館多田学芸員により明らかになった.
【研究代表者】