現代世界における言語の多層化と多重言語使用がもたらす文化変容をめぐる多角的研究
【研究分野】文学一般(含文学論・比較文学)・西洋古典
【研究キーワード】
比較文学 / 国民国家 / 植民地主義 / 多言語使用 / 二重言語使用 / 脱植民地化 / 一言語使用 / 言語学 / グローバル化 / 移民文学 / 難民の文学 / 英語圏文学 / アバンギャルド文学 / 声の文化・文字の文化 / 移民現象 / 文化本質主義 / 翻訳理論 / 多言語主義 / 社会言語学 / 文化人類学 / 帝国 / 歴史学
【研究成果の概要】
近代以降、帝国主義と国民国家は、少数言語を抑圧あるいは周縁化してきたのみならず、民衆に対して複数言語使用を強要してきた。英語の世界化が進む現在は、これにいっそうの拍車をかけているとすらいえる。しかし二〇世紀文学は複数言語使用テキストをかならずしも量産する方向には向かわなかった。これには「国家語による文学=国民文学」という圧力の強化という要因が考えられるが、本研究は、文学における一言語使用の脱領域的(マイナー)な使用という観点から、国民文学史を越えた新しい文学史の方法的探究に目標を置いた。ラテンアメリカやカリブ海地域における『テンペスト』(シェークスピア)の再読・翻案、アジア太平洋戦争前後を通した日本語文学とその周辺、ハワイにおける日系移民の口頭伝承やパレスチナ難民の言語活動など、私たちが取り組んだ対象地域は多岐に及ぶ。フランス領マルチニックと日本領沖縄の知識人状況の比較や、第二次世界大戦後の日本とイラクにおける軍事占領との単なる類似を超えた連続性を探る比較研究の方法も、21世紀の政治・文化を直視する上できわめて効果的であることを再確認した。ホロコースト前夜の言語論としてワルター・ベンヤミンの思考をいまふりかえることにも大きな意味を見出すことができた。グローバル化が進む現在、20世紀のさまざまな地域や時代の表現を縦横に行き来しつつ、個々のモメントを結びつけ、照合し、重ね合わせる「比較」という手法の有効性はいっそう高まっている。文学研究・歴史研究・思想史研究・人類学的研究が今日かかえる問題はきわめて近接しており、その交差する地点を見定める上でも、本研究は有意義な共同研究となった。
【研究代表者】