「共感」の言説と文学ー社会思想史的文学研究の可能性を探る
【研究キーワード】
共感 / 文学 / イギリス哲学 / イギリス18世紀文学 / チャリティ / 奴隷貿易 / 植民地主義 / ユニタリアン / 思想史 / フィランスロピー / コスモポリタニズム / ヴィクトリア朝 / ロマン主義 / 感情史 / 感受性
【研究成果の概要】
本年は前年度未遂行のままであった18世紀イギリスにおける共感の哲学的考察を継続しつつ、新たなに18世紀末からの文学における共感のあり方について検証を開始した。SterneやMakenzieの小説、Goldsmithの小説と詩を中心とした文学テクスト、さらには救貧法に関わる議論と同時代の感受性小説の中に、貧困という痛みや抑圧に共同体の亀裂を読み込み、「共感」がどういう形で人間間、あるいは社会内で機能すると捉えられているのかを検証した。その一方で、すでに別プロジェクトで分析した奴隷貿易廃止運動に関わる女性詩を再読しながら、女性たちが抑圧的隷属状況にある奴隷たちへの「共感」を詩の中で言語化し、公共圏において発言する言語態を精査した。同時にユニタリアンを中心とするいわゆる「理性的非国教徒」において、共感が奴隷貿易反対の礎になっていると同時に、その理由として自由で人道的な海外貿易こそがより大きな公益、人類全体に対する利益を確保する手段であり、その根底に本来あるべき共感、彼らが言う「普遍的仁愛」があるという考え方が横たわっていることを証明した。女性たちの「共感」は公共圏から排除された自分たち自身の不満の反映として理解すべきものでもあるが、理性的非国教徒の反奴隷貿易言説が包摂する「共感」はその問題を共有しつつも、植民地主義および植民地との交易における人種差別的な構造を批判する政治的な力を持ちつつも、必ずしも植民地主義そのものを転覆させることは意図していないものであった。前年度に遂行した研究のうちウィリアム・クーパーに関わる論考は共著書に所収されてエディンバラ大学出版局から10月に出版され、それに関わる校正を年度初頭に行った。また奴隷貿易と共感については3月末に刊行された国内共著書に所収された論分のなかでまとめた。コウルリッジと共感・博愛の問題については学会発表を行なった。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2020-04-01 - 2024-03-31
【配分額】4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)