多元文化国家米国における学校の公共性論議に関する史的研究
【研究分野】教育学
【研究キーワード】
学校 / 公共性 / アメリカ合衆国 / 多様性 / 歴史研究
【研究成果の概要】
「私事化」「市場化」の進展のなかで公教育の解体を危惧する見解が示される一方で、国家の束縛から解放された公共空間に異質で多様なアイデンティティ形成をみる公共性論が提起されている。本研究の目的は、米国における学校の公共性論議を、国家と市場、同質性の確保と異質性の承認の二つの観点から歴史的に分析し、今日の学校改革の課題を導き出すことである。おもな成果は次の通りである。
1.建国期のB.ラッシュにおいては、「モラル」による多様性の統合が意図されていたこと。また、同期のB.ジェファソンの教育法案では、意外にもpublic schoolやprivate schoolという表現は見られないこと。
2.コモンスクール運動期のH.マンの教育長報告書では、public schoolとcommon schoolが併用されるとともに、共通性の確保と関わってprivate schoolとの差異化の意向が言葉の用法からもたどれること。
3.20世紀への転換期には特殊学級が設置されていくが、官僚主義・効率主義化のもとで通常学級から逸脱する子どもへの対応とする見解と、多様なニーズをもつ子どもへの対応とする見解が示されていること。
4.アイデンティティの差異の承認と、それに基づく選択と評価の文脈に、福祉国家的平等と市場的自由が統合される契機がある一方で、今日の連邦施策はそこに「排除と包含のポリティクス」をもたらす契機があること。また、団体交渉協約も含めた今日の「脱規制化」の進行は、教育の公共性を損なう恐れのあること。
5.高等教育については、旗艦州立大学の財政面での「私学化」が進行していること。名門私立と研究面で覇権を競うのはこうした「私学化」した「旗艦大学」の仕事となっていくこと。
【研究代表者】