狩谷エキ斎の『論衡』校勘に関する研究
【研究分野】日本文学
【研究キーワード】
論衡 / 書誌学 / 考証学 / 狩谷エキ斎 / 漢籍 / 国文学
【研究成果の概要】
宋版『論衡』によってエキ斎が校注した、あるいはその校注を転写したと見られる諸本を調査した結果、エキ斎の自筆校本は静嘉堂文庫蔵和刻本と慶應義塾蔵広漢魏叢書本の二本であり、そのうち和刻本は、エキ斎が校注を書き入れた後に、宋版論衡の旧蔵者である山梨稲川の親族に渡っている。一方、広漢魏叢書本の校注は、京都大学蔵久保謙手校本や東北大学狩野文庫藏広漢魏叢書本に転写されている。両系統とも、エキ斎と近い関係にあった人物によるものである。調査した諸本のうち、静嘉堂文庫蔵小島抱沖手校本は、エキ斎校注の転写ではなく宋版の原本に拠って校合を行ったと考えられ、エキ斎以降の宋版伝来の一端が知られた。
【研究の社会的意義】
本研究は宋版『論衡』を通じて、江戸後期における考証学者の交流関係や漢籍の研究方法、善本の伝来の一例を示した。狩谷エキ斎の漢籍研究の成果は、緻密な校勘の他に、自筆の識語には宋版の旧蔵者や通津草堂本の刊行時期など、書誌学上非常に重要な見識が述べられている点にある。エキ斎の書誌学的な成果は渋江抽斎等が編纂した『経籍訪古志』にまとめられているが、そこに至る以前の識語が校注転写本にも継承され、現在に伝えられている。宋版の書誌的研究だけでなく、日本書誌学史の観点から見てもエキ斎研究の意義は大きい。
【研究代表者】
【研究種目】研究活動スタート支援
【研究期間】2017-08-25 - 2019-03-31
【配分額】2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)