高齢者の身体モデルとその神経基盤の解明
【研究キーワード】
実験心理学 / 身体モデル / 加齢 / ベイズ理論 / バーチャル・リアリティ / 異種感覚統合 / 身体知覚 / 心理実験 / 身体表象
【研究成果の概要】
高齢期の認知機能低下への対策は,認知症とその予備群の増大,危険運転による事故多発などの社会問題を解決するためにも重要である。この認知機能低下には,感覚運動機能の低下と,それに伴う脳内の身体・運動表象(身体モデル)の歪みの関与が考えられる。高齢期の身体モデルへの理解と介入は,転倒予防等の身体運動機能改善のみならず,認知機能の維持・向上に役立つことが期待される。そこで本研究では,高齢期における身体モデルの様式とその更新プロセスをベイズ理論の枠組みを利用して明らかにする。また,得られた知見に基づき,高齢者の身体モデルの改善に有用な,効率的かつ効果的なバーチャル・リアリティを使った介入方法を提案する。
本年度は,前年度に引き続き【A】間隔精度及び身体モデルの測定および【B】感覚入力と身体モデルの統合プロセスの解明に取り組むとともに,【C】若齢成人を対象にした人工ノイズ付加実験に取り組んだ。前年度にはミラー錯覚を用いて身体位置知覚に外乱を与えた場合には,高齢者は外乱が取り除かれてもその影響がしばらく残っていることを明らかにした。本年度はこの現象について詳細に検討を行い,転倒リスクの高い高齢者ほどこの現象が強く現れることや,内受容感覚とも関連がある可能性があることなどを示した。また,新たにIntentional Binding現象を用いて行為とその結果の結びつけプロセスの加齢変化を調べたところ,若齢者は自分の自発行為でのみこの現象が現れたのに対して,若齢者は非自発行為にも同現象が現れることが示された。これらの成果は,高齢者(特に転倒リスクの高い高齢者)は,身体位置知覚や行為ー結果の因果知覚において,内的に生成される情報(自己受容感覚情報や運動指令情報など)よりも外的に示される情報に大きな重みをおいていることが示唆された。
【研究代表者】