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九州大学 研究Discovery Saga
2026年10月21日

ステロイド薬による副腎萎縮の仕組みを解明

ACTH分泌低下が副腎皮質のミトコンドリア障害と細胞死を引き起こす ―副腎不全の新たな予防・治療法の開発に期待― 医学研究院 小川佳宏 主幹教授

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
ACTHや抗酸化物質の投与が、ステロイド薬による副腎障害を軽減することをマウス実験により明らかにし、将来の副腎不全の予防・治療法の開発につながることが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
生物学工学総合生物農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
副腎皮質/持続可能/持続可能な開発/酸化物/たんぱく/システイン/リン酸/プロテインキナーゼ/下垂体/副腎/Nrf2/ROS/アデノシン/炎症性疾患/腎不全/ACTH/ホルモン/グルタチオン/キナーゼ/ステロイド/ステロイドホルモン/マウス/ミトコンドリア/活性酸素/活性酸素種/抗炎症/抗炎症作用/抗酸化/抗酸化物質/細胞死/自己免疫/自己免疫疾患/受容体/腎障害/転写因子/副作用/ストレス/遺伝子/医師/感染症/血圧/酸化ストレス/脂質/手術/糖代謝
2026.10.20 研究成果Life & Health

発表のポイント

ステロイド薬はさまざまな疾患の治療に用いられるが、長期間使用すると副腎萎縮を伴う副腎不全(※1)を引き起こす。
ステロイド薬使用による下垂体からのACTH(※2)分泌低下により、副腎皮質細胞の抗酸化機能が弱まり、ミトコンドリア(※3)に活性酸素種(ROS)(※4)が蓄積して細胞死が起こるという副腎が萎縮する一連の仕組みを明らかにした。
ACTHや抗酸化物質の投与が、ステロイド薬による副腎障害を軽減することをマウス実験により明らかにし、将来の副腎不全の予防・治療法の開発につながることが期待される。

発表概要

 副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドは、糖代謝調節作用、抗炎症作用、抗ストレス作用など多様な生理作用を有します。糖質コルチコイドを人工的に合成したステロイド薬は炎症性疾患や自己免疫疾患など、さまざまな病気の治療に広く使われています。一方、長期間使用すると副腎から作られるホルモンの分泌が低下し、副腎が萎縮して副腎不全を起こすことがあります。副腎不全は、ステロイド薬の重要な副作用の一つですが、どのようにして副腎が萎縮するのか、その詳しい仕組みは十分に分かっていませんでした。
 九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学の内田尚宏 特任助教、河村菜実子 特任助教、九州大学病院 馬越洋宜 講師、小川佳宏 主幹教授らの研究グループは、マウスにステロイド薬の一つであるデキサメタゾン(DEX)を投与すると、副腎皮質細胞を刺激するACTHの分泌が低下し、細胞を酸化ストレスから守る抗酸化機能が弱まることを明らかにしました。また、細胞のエネルギーを作るミトコンドリアに活性酸素種(ROS)が蓄積し、ミトコンドリアが障害され、副腎皮質細胞が死んでしまうことを見出しました。さらに、ACTHの下流で働く転写因子SF1(※5)が、抗酸化機能を担うNRF2(※6)の働きを調節していることを明らかにし、「ステロイド薬 → ACTH低下 → 抗酸化機能低下 → ミトコンドリア障害 → 副腎細胞死 → 副腎萎縮」という一連の仕組みが示されました(図)。さらに、ACTHまたは抗酸化物質であるNAC(※7)をマウスに投与することで、ROSの蓄積やミトコンドリアの障害、副腎の萎縮、細胞死が軽減することを明らかにしました。
 これらの研究成果は、ステロイド治療に伴う副腎不全の仕組みを理解するうえで重要な知見であり、将来の予防・治療法の開発につながることが期待されます。
 本研究成果は、国際科学誌「Cell Death & Disease」に2026年10月20日(火)(日本時間)に掲載されました。
図 本研究で明らかになった副腎皮質細胞死の仕組み



糖質コルチコイド過剰によりACTHが低下すると、ACTH-MC2R(メラノコルチン2受容体)の下流シグナルであるcAMP(環状アデノシン一リン酸)/PKA(プロテインキナーゼA)経路が抑制され、SF1/NRF2経路を介した抗酸化機能が弱まります。その結果、ミトコンドリアにROSが蓄積し、ミトコンドリア障害と副腎皮質束状層の細胞死が進みます。マウスではACTHまたは抗酸化物質であるNACがこれらの変化を軽減しました。
研究者からひとこと
ステロイド薬の長期使用に伴う副腎不全は、多くの医師が診療でしばしば経験する問題です。これまでは、副腎不全が生じた後の対症療法が中心でした。本研究により、その発症機序の一端が明らかとなり、副腎不全を未然に防ぐための治療法につながる可能性が示されました。将来的に、患者さんがステロイド薬をより安全に使用できる医療の実現につながることが期待されます。(内田尚宏)

用語解説

(※1)副腎不全
副腎皮質ホルモン、特に糖質コルチコイドが不足する状態です。だるさ、食欲低下、低血圧、低血糖などを生じ、感染症や手術などの強いストレス時には生命に関わることがあります。
(※2)ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)
Adrenocorticotropic Hormoneの略称です。下垂体から分泌され、副腎皮質に糖質コルチコイドを作るよう促すホルモンです。
(※3)ミトコンドリア
細胞内でエネルギーを作る小器官です。副腎皮質ではステロイドホルモンの合成にも重要です。
(※4)活性酸素種(ROS)
Reactive Oxygen Speciesの略称で、反応性の高い活性酸素を指します。過剰に蓄積すると、たんぱく質、脂質、DNAなどを傷つけます。
(※5)SF1(NR5A1)
Steroidogenic Factor-1の略称です。副腎や性腺でステロイドホルモン合成に関わる遺伝子の働きを調節する転写因子です。
(※6)NRF2
Nuclear factor erythroid 2-related factor 2の略称です。酸化ストレスに応答して抗酸化関連遺伝子の働きを高め、細胞を保護する転写因子です。
(※7)NAC
N-アセチル-L-システインの略称です。細胞内の代表的な抗酸化物質であるグルタチオンの材料となります。

論文情報

掲載誌:Cell Death & Disease
タイトル:Role of the ACTH-SF1/NR5A1-NRF2 axis in glucocorticoid-induced adrenocortical cell death through mitochondrial ROS accumulation
著者名:Naohiro Uchida, Namiko Kawamura, Hironobu Umakoshi, Maki Yokomoto-Umakoshi, Tazuru Fukumoto, Norifusa Iwahashi, Masamichi Fujita, Aya Fujimoto, Kaede Saito, Yuta Hiraike, Fumiya Takahashi, Takashi Baba, Masahide Seki, Yutaka Suzuki, and Yoshihiro Ogawa
DOI:10.1038/S41419-026-09306-8
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