X線ライトシートを用いた3次元超解像顕微鏡
-細胞内部の3次元構造を非破壊で解明-
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 短時間露光による放射線損傷の影響を最小限に抑え、細胞内部組織や加工プロセスにおける工業製品の3次元構造を大気中において非破壊で解明することに貢献すると期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
画像情報/画像情報処理/システム開発/原子核/閉じ込め/SPring-8/シンチレータ/軟X線/放射光/放射光X線/放射線損傷/遠赤外線/赤外線/光化学/シンクロトロン放射/電子線/回折限界/X線集光/レンズ/可視光/蛍光体/発光材料/光照射/量子ドット/3次元構造/シリカ/ナノスケール/ナノメートル/マイクロ/位置決め/超解像/電子顕微鏡/電磁波/半導体/微粒子/分解能/光学顕微鏡/超解像顕微鏡/カルス/空間分解能/光イメージング/卵巣/ナノテクノロジー/バイオテクノロジー/蛍光顕微鏡/超解像イメージング/放射線
2026年10月14日
理化学研究所
概要
理化学研究所(理研)放射光科学研究センター 放射光イメージング利用システム開発チームの香村 芳樹 チームリーダーらの国際共同研究グループは、X線ライトシート顕微鏡[1]を用いて、放射線損傷の影響を最小限にした非破壊計測データから、ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)オーダーの3次元的位置決定精度を持った超解像イメージング[2]に成功しました。本研究成果は、短時間露光による放射線損傷の影響を最小限に抑え、細胞内部組織や加工プロセスにおける工業製品の3次元構造を大気中において非破壊で解明することに貢献すると期待されます。
国際共同研究グループは、大型放射光施設「SPring-8(スプリングエイト)」[3]の放射光X線を非常に薄く加工し、X線ライトシート顕微鏡を用いて、ナノスケールの位置決定精度を持つ薄い断面での計測を繰り返し行うことにより、ハムスターの卵巣細胞内部の短時間露光による3次元超解像イメージング[2]に成功しました。
本研究は、科学雑誌『Optics Express』オンライン版(10月12日付)に掲載されました。

2種類の微粒子マーカーを導入したハムスター卵巣細胞内部のX線ライトシート顕微鏡画像
背景
超解像蛍光顕微鏡[2]は、可視光領域の蛍光顕微鏡(可視蛍光顕微鏡[4])を用いて回折限界を超えた高い空間分解能[5]を達成しました。これは生命科学の研究を大きく進歩させる画期的な発明であるとして、開発した研究者が2014年にノーベル化学賞を受賞しました。3次元超解像蛍光顕微鏡は、蛍光分子の光化学的な特性などを利用して蛍光を観測する状態と観測しない状態(蛍光点滅制御プロセス)を生成することで、近接する分子が同時に蛍光を発することを避ける技術が用いられています。これにより、蛍光分子をランダムに発光させた多数の画像に対して、それぞれの点像の重心位置を重心演算[6]で計算し(局在解析法[7])、光学顕微鏡の回折限界を超えるナノメートルの空間分解能を実現します。しかし、蛍光点滅制御プロセスのために、1枚の画像を作成する撮影時間が数秒~数分以上となり、測定時間が長くなってしまいます。また、可視蛍光顕微鏡は、試料の深さ解像度が観察面内方向の解像度よりも低いため、観察対象が制約されます。2022年にSPring-8で開発されたX線ライトシート顕微鏡では、シート型に成形したX線励起光(X線ライトシート)を試料の横から照射し、X線ライトシートの光軸と直交する方向に試料中の蛍光体分布を観察します注1)。試料には微粒子マーカー(サイズ10~20nmのシンチレーター[8])が導入されており、X線ライトシートが照射された試料の非常に薄い平面内の微粒子マーカーが蛍光を発します。この2次元平面から外れた領域内の微粒子マーカーは蛍光を発しないため、X線ライトシートと直交する方向において蛍光の重なりを最小限に抑えることができます。これによって、常時蛍光を発し点滅を必要としない通常のシンチレーターが利用可能となり、短時間露光による3次元超解像蛍光顕微鏡が達成可能となりました。
この蛍光発光の2次元分布を可視蛍光顕微鏡で観察することにより、微粒子マーカーの2次元分布を取得します。X線ライトシートの光軸に対して垂直に試料を並進運動させて、微粒子マーカーの2次元分布を重ね合わせることで、3次元イメージングデータを取得できます。蛍光顕微鏡のピントが合った面だけにX線ライトシートを照射して蛍光を発生させるため、他の面でのピンボケした像の重なりや、観察面以外での余分な放射線損傷を避けられます。また、試料の深さ方向(光軸と直交する方向)の解像度が観察面内方向の解像度を上回っているため、可視蛍光顕微鏡に比べて観察対象が拡大する可能性が示唆されています。
国際共同研究グループは、X線ライトシート顕微鏡を用いて、可視蛍光顕微鏡の解像度限界を破る3次元超解像イメージングに挑みました。
注1)2022年6月14日プレスリリース「X線ライトシート顕微鏡」
研究手法と成果
まず、1次元X線集光によって発生させた薄いX線ライトシートを、試料のY方向(観察面内方向)に照射し、試料内にまばらに分布する微粒子マーカーを発光させ、X線光軸Y方向と直交するZ方向を光軸とした可視蛍光顕微鏡で試料を観察しました。試料位置をZ方向にスキャン(走査)することで、3次元イメージングデータを撮影しました(図1a)。
図1 微粒子マーカーの3次元重心演算による位置決め用の実験・解析の模式図
(a)Z方向(深さ方向)に対し60nm程度の非常に薄い深さを持ったX線ライトシートを、試料のY方向(観察面内方向)に照射し、試料内に導入された微粒子マーカーの分布を、Z軸を光軸とした可視蛍光顕微鏡で観察した。微粒子マーカーとして、X線用の微小蛍光体(サイズ10~20nmのシンチレーター)を用いた。試料位置をZ方向にスキャン(走査)することで、3次元イメージングデータを取得した。
(b)Z方向における一定の深さでピントを合わせて撮った、XY平面内像(右)を、深さを変えて複数撮って3次元情報とし、このデータセットから、コンピュータ上で、同じYを持つXZ平面内像(左)の情報を切り出した。微粒子の3次元位置を求めるために、それぞれの断面での重心演算を行った。
次に、Z方向において一定の深さでピントを合わせて撮った、XY平面内像(図1b右)に対して重心演算を実施しました。深さを変えながらサンプルを深さ方向に移動させ、複数の像を撮って3次元情報を取得しました。このデータセットから、コンピュータ上で、同じYを持つXZ平面内像(図1b左)の情報を切り出し、そのXZ断面像に対して重心演算を施しました。これらの結果、微粒子の3次元位置を求めることに成功しました。
本手法の検証実験として、真球の形状に成型したシリカ球の表面に量子ドット[9]型の微粒子マーカー1層を密着させた試料を観察しました。X線ライトシート顕微鏡によって、3次元データセットを取得し、微粒子マーカーの位置の3次元重心演算を実施しました。各微粒子マーカーに対する位置決定誤差のヒストグラムの分布を確率密度関数[10]で近似し、ピーク位置を微粒子マーカーの位置決定精度と定義しました。結果として、面内方向7nm(図2a)、深さ方向2nm(図2b)の精度で位置が得られ、これは、ともに微粒子の大きさである10nm以下の非常に高い位置決定精度が達成されていることを示しています。X線ライトシートの深さが60nm程度と非常に薄いため、発光する微粒子が空間的にまばらとなり、時間軸上でまばらに点滅させる蛍光点滅制御プロセスが不要であるため、短時間露光による3次元超解像イメージングが可能となります。3次元重心演算によって求めた微粒子マーカーが、半径5.5マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)のシリカ球表面に載っていることが示されました(図2c、d)。

図2 シリカ球表面上の微粒子マーカーの3次元位置を重心演算で求めた結果
(a、b)シリカ球表面上の微粒子マーカーの位置の3次元重心演算を実施して得られた面内方向(a)、深さ方向(b)の位置決定誤差のヒストグラムを示す。赤の点線のような確率密度関数で近似した結果、標準偏差で7nm(面内方向)、2nm(深さ方向)の位置にピークが見られ、高い位置決定精度が示された。
(c、d)3次元重心演算によって、微粒子マーカーが、半径5.5μmのシリカ球表面に載っていることが示された。
続いて、本手法を生体細胞に用いる際の有効性を検証しました。数μm厚程度のハムスターの卵巣細胞試料内部に、サイズ10nmの微粒子マーカーを導入し、高位置精度の3次元イメージングに挑みました。この結果、微粒子マーカーは、核膜孔(核孔)を透過せず、核外にとどまる様子が示され(図3)、サイズ10nmの微粒子マーカーは核孔を透過せず、6nm以下だと透過するという電子顕微鏡による報告注2)と一致しました。今回の超解像イメージング手法では、大気中での非破壊細胞観察によって、高位置精度で内部の微粒子マーカーの3次元分布が観察可能であることが確認されました。

図3 3次元重心演算で求めた卵巣細胞試料内部の微粒子マーカーの分布
色は細胞内部の深さを表す。黒色の点線内の領域には、微粒子マーカーが含まれておらず、核内部に相当すると考えられる。
注2)S. Huo, et al.,ACS Nano, 8, 6, 5852-5862 (2014).
今後の期待
今回の研究では、X線ライトシート顕微鏡のデータに対して、試料中の微粒子マーカーの位置の重心演算を実施し、視野100μm四方において、10nm程度の大きさの蛍光微粒子マーカーの分布を、ナノメートルオーダーの位置精度で3次元的に決定できることを初めて示しました。また、細胞観察において、高位置精度で試料内部の微粒子マーカーの3次元分布を観察可能である上、大気中での非破壊観察が可能になるなど利便性の高い手法であることが示されました。本研究手法では、試料へ照射するX線ライトシートの深さが非常に薄いことにより、時間軸上で蛍光が重ならないようにするための蛍光点滅のプロセスが不要となり、短時間露光による3次元超解像イメージングが可能となります。また、放射線損傷の影響を最小限にした非破壊計測により、細胞内部の組織や加工プロセスにおける工業製品の3次元構造の解明に貢献することが期待されます。
今後も、X線照射に対する発光効率がさらに高い微粒子マーカーを開発し、動的な3次元超解像イメージングを発展させていきます。さらに、電子顕微鏡では観察しにくい厚みがある試料、破壊測定が好ましくないさまざまな試料、高精度を必要とする工業製品、細胞、特に核膜における飲食作用経路や生体の器官などの観察実例の蓄積を進め、本手法の有効性の検証とともに用途範囲のさらなる拡大を目指します。
補足説明
1.X線ライトシート顕微鏡ライトシート顕微鏡は、試料中の蛍光体分布を観察するため、シート型の励起光(ライトシート)を試料の横から照射し、ライトシートと直交する方向に顕微鏡を設置するシステムのこと。試料をライトシートに対して垂直に並進運動させることで、計算を経ずに3次元情報を取得できる。X線ライトシート顕微鏡は、X線照射で可視発光を起こすシンチレーター([8]参照)微粒子が導入された試料にX線ビームのライトシートを当て、これらの発光をX線光軸と垂直方向から可視光顕微鏡システムで観察するシステムのこと。また、可視光照射光よりも桁違いに薄い照明光を利用できるため、高い精度で微粒子の位置を決定できる。今回は、大きさ10nmオーダーの微粒子を用いた。
2.超解像イメージング、3次元超解像イメージング、超解像蛍光顕微鏡
光は波としての性質を持ち回折という現象により、光学顕微鏡で観察できる空間分解能([5]参照)が制限され(回折限界)、観察に用いる光の波長の半分程度であることが理論的に示されている。この回折限界を超えて、光の波長の半分程度を上回る空間分解能で観察する手法を超解像イメージング法、さらに、試料のスキャンにより3次元的に回折限界を超え観察する手法を3次元超解像イメージング法と呼ぶ。イメージングは撮像を表す。また、近年、蛍光分子の特徴を巧みに利用することで、回折限界を超えた高い空間分解能を達成する顕微鏡が開発され、これを超解像蛍光顕微鏡注3)と呼ぶ。
注3)2015年4月15日プレスリリース「シャッター速度世界一の超解像蛍光顕微鏡を開発」
3.大型放射光施設「SPring-8(スプリングエイト)」
理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する細くて強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外線から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光が得られるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。
4.可視蛍光顕微鏡
特定の波長の光(励起光)を試料に照射し、試料から発せられる可視光域の蛍光をフィルターで選別して観察・記録する光学顕微鏡。
5.空間分解能
顕微鏡などにおいて、分離できる二つの点状物体の間の最小距離。光の波長やレンズ性能で決まる。
6.重心演算
点状の微粒子を顕微鏡で観察した際の広がった像から、輝度分布による重み付けを基に微粒子位置を計算する方法。
7.局在解析法
従来の蛍光顕微鏡において、点滅する色素分子を導入し、蛍光を時間的にまばらに生じさせることで、複数の色素分子の像が重なることを避け、重心演算から高精度の画像を再構成する解析法。
8.シンチレーター
X線、ガンマ線や電子線などが照射された際に、そのエネルギーを吸収して可視発光する物質。
9.量子ドット
電子を3次元的に閉じ込めるために20nm以下程度に加工された半導体などの粒状の構造のことで、可視光領域での新しい発光材料として利用される。
10.確率密度関数
ある値の周辺に確率がどの程度集中しているかを表す関数のこと。グラフの高さが、その値の「起こりやすさの密度」を表す。ある範囲についての確率は、その範囲に対応するグラフの面積として表される。
国際共同研究グループ
理化学研究所放射光科学研究センター
放射光イメージング利用システム開発チーム
チームリーダー 香村 芳樹(コウムラ・ヨシキ)
エンジニアリングチーム
テクニカルスタッフⅠ(研究当時)シエラ・ディーン(Sierra Dean)
上級テクニカルスタッフ 髙野 秀和(タカノ・ヒデカズ)
放射光科学研究センター センター長(研究当時)石川 哲也(イシカワ・テツヤ)
(現 理事長特別補佐)
光量子工学研究センター 画像情報処理研究チーム
チームディレクター 横田 秀夫(ヨコタ・ヒデオ)
台湾中央研究院 物理研究所
非常勤研究員 ユーカン・フウ(Yeukuang Hwu)
原論文情報
Sierra Dean, Hidekazu Takano, Shun-Min Yang, Hsiang-Hsin Chen, Xike Tian, Yeukuang Hwu, Hideo Yokota, Giorgio Margaritondo, Tetsuya Ishikawa, Yoshiki Kohmura, "3-dimensional localization using X-ray lightsheet microscopy with non-blinking scintillating nanoparticles",Optics Express,10.1364/OE.601468発表者
理化学研究所放射光科学研究センター放射光イメージング利用システム開発チーム
チームリーダー 香村 芳樹(コウムラ・ヨシキ)
報道担当
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