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千葉大学 研究Discovery Saga
2026年10月7日

ハドロン宇宙国際研究センターが参加する国際共同研究がノーベル物理学賞を受賞

【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学工学
【Sagaキーワード】
高エネルギー/国際共同実験/弱い相互作用/超高エネルギー/標準理論/データ解析/ニュートリノ/観測装置/検出器/天文学/望遠鏡/可視光/電磁波

2026年10月06日
受賞

概要

千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターのニュートリノ天文学部門が参加する、ニュートリノ観測の国際共同研究であるIceCube(アイスキューブ)実験の功績により、このたびFrancis Halzen 氏が2026年ノーベル物理学賞を受賞することが発表されました。
 吉田滋教授、石原安野教授が所属する千葉大学チームは、同プロジェクト唯一の日本からの参加機関です。2012年の世界初高エネルギー宇宙ニュートリノの検出や、2018年に発表されたニュートリノ放射源天体の史上初同定、2021年発表のGlashow共鳴の初検出など、数々の主要な成果に関わっています。




南極にあるIceCubeのニュートリノ観測施設 (c)Benjamin Eberhardt, IceCube NSF


横手幸太郎学長のメッセージ
 IceCube実験のFrancis Halzen博士のノーベル物理学賞受賞が決定しました。
 同プロジェクトには、千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターのニュートリノ天文学部門が日本の機関として唯一参加しており、2002年の観測施設建設当初から、これまで発見された代表的なニュートリノ事象や、ニュートリノの起源の同定といった成果にも主要チームとして貢献してきました。
 今回、この国際研究プロジェクトの功績が世界で最も権威ある賞の受賞につながったことは、我々にとっても大変名誉なことです。
 これまで、中心となって千葉大学チームを牽引してこられた吉田 滋 先生、石原 安野 先生に、大学を代表して、心からの敬意を表します。
 千葉大学では、国際頭脳循環の中核として世界最先端の研究を展開すべく、2022年に設立された千葉大学国際高等研究基幹を中心に、世界トップレベルの研究力と研究人材の育成、産官学連携を強力に推進しています。 この度の功績を励みとして、「つねに、より高きものをめざして」という本学の理念のもと、「知の共鳴で未来を拓く千葉大学」をめざし、たゆみない挑戦を続けてまいります。
羽石秀昭理事のメッセージ
 このたびのノーベル物理学賞の受賞に際し、千葉大学が参加しているIceCube国際共同研究の成果が評価されたことを大変誇りに思います。
  IceCube実験は、南極点に5,000台を超える検出器を埋設した世界最大規模のニュートリノ観測実験であり、宇宙の高エネルギー現象の解明に挑む壮大な実験です。本学は日本で唯一の参加機関として立ち上げ段階から参画し、吉田滋センター長、石原安野教授をはじめとする研究者が、数々の歴史的成果を世界に先駆けて挙げてきました。
  この研究は、基礎科学の探究であると同時に、国際共同研究の模範例でもあります。世界中の研究者が力を合わせることで、宇宙の謎に迫るという人類的営みが実を結びました。本学としても、こうした挑戦を支える研究環境づくりを今後一層進め、次世代の若手研究者が国際舞台で活躍できるよう尽力してまいります。
  この歴史的な瞬間を、受賞者、共同研究者の皆さまと共に心から喜びたいと思います。
吉田滋教授のコメント
 IceCube 実験プロジェクトを推進する国際共同実験チームが発足した2002年に日本から唯一のグループとして参加を決めたとき、ニュートリノで高エネルギー宇宙を探るなど夢物語であり、有用な成果など出ないだろうという悲観的意見が圧倒的多数派でした。とくに日本においては厳しい船出でしたが、ニュートリノの検出は絶対的な切り札であるという信念のもとに、結果をひたすら求めて邁進してきました。最初の10年間は非常に苦しいものがありましたが、チームのメンバーと助け合い切磋琢磨しながら行き着いた先に成果を挙げることができたのは、大きな喜びです。とくに最初の宇宙ニュートリノ信号は日本グループの解析で同定されたことを思い返すとき、全力を出し切った者にのみ、たまに幸運の女神が微笑むこともある、という古くからの格言の言わんとすることを身にしみて感じます。
 この成果は多くの優秀な仲間たちがいたからこそ、実現できたものです。石原さんをはじめ、優秀な研究者がリスクを賭けて挑戦し掴み取ったものです。そうした仲間に恵まれたことは私の一番の幸運だったと思います。また苦しい時代に応援していただいた先輩研究者の方々にも感謝いたします。さらにごく小さなグループから出発した日本グループをフェアに評価し、規模の大きな米国グループとも同じ土俵で仕事をさせてくれたIceCube 国際共同実験チームにも謝意を表したいと思います。国際共同研究の醍醐味を感じさせる素晴らしい雰囲気のチームでした。
 小さなグループからスタートした千葉大学グループですが、その成果が認められ、長年の活動を通して国際チームの中でも大きな信頼を得ることができた現在、世界14カ国(発足当初は日本を含めて5カ国でした)から成るIceCube 国際共同実験チームのなかで、中核となるグループに成長しました。2026年に完了したIceCube実験アップグレードでは、中心となる新型検出器を開発・製作し、さらにその先を見据えた将来実験 IceCube-Gen2の中核を担います。さらにIceCubeによるニュートリノ観測と可視光・X線など電磁波による伝統的な観測を組み合わせる「マルチメッセンジャー天文学」では、我が国でも国際競争力を持った連携研究プログラムが走っています。今後の研究成果にもご注目ください。
石原安野教授のコメント
 私がIceCube実験に初めに参加したのは2005年の1月、IceCube実験建設の初年度。南極点にまさに初めの検出器埋設孔を掘ろうという、そのような時期でした。2004年に博士号を取得し、初めてのポスドクとしてIceCube建設の真っただ中にいるウィスコンシン大学グループに加わった私が、初めに強烈に感じたのは過酷な環境で巨大検出器を建設する困難さ、そして、そのようなスケールの大きな実験から得られるデータを通して、宇宙とつながれる面白さでした。
 宇宙には高エネルギーのニュートリノが飛び交っているはずだ。電荷も持たず弱い相互作用でしか反応を起こさない粒子、ニュートリノをメッセンジャーとして使うことで今まで見えなかった高エネルギー宇宙の描像が見えるようになる。しかし、高エネルギーニュートリノ天文学を切り開くには、観測が期待できるニュートリノの量を考えると少なくとも一立方キロメートルもの大きさのニュートリノ検出器が必要だ。というところまでは、比較的シンプルな考え方なのです。しかし、そこから実際にそのような巨大なニュートリノ検出器をデザインし、南極点に作り、それを使ってニュートリノを使った宇宙の観測を行うようになるまでには大きな隔たりがあるだろう、ということは皆さんも想像がつくのではないでしょうか。
 私がIceCube実験のプロジェクトオフィスがあるウィスコンシン大学から千葉大学へと研究の拠点を移した2006年当時、千葉大学のIceCubeグループは人も予算も少なく、その中で個性を出しながら、如何に成果を出していくのか、戦略が求められていました。そのような中、グループ内での侃々諤々の議論を経て、我々は独自の戦略を立て、ユニークなデータ解析による物理成果を創出してきました。当時から200名を超える、現在は450名を超える研究者が参加するIceCube実験の中で、千葉大学グループ”らしさ”のある成果を着実に出し続け、その結果、いつかは私もと考えていた検出器開発や製造へと、日本からの寄与を広げることが出来たことは大きな喜びです。また、2026年1月にはIceCube実験がそのアップグレードを完了し、日本グループは観測装置の設置に大きく貢献しました。アップグレードの先にはIceCube実験の拡張計画であるIceCube-Gen2実験があり、その実験においても、日本グループは中心を担います。
 高エネルギーニュートリノ天文学は、地球上では作ることができないが宇宙に存在する事はわかっている超高エネルギーの粒子が作られるときに“どのような仕組みが働いているのか“、という宇宙の根源的な謎に迫ることを可能とします。また、現在の物理学の標準となっている理論に綻びがあるのかないのか。そのような物理学の標準理論の検証にもニュートリノ望遠鏡は強力な手段となっています。宇宙から飛来するニュートリノの観測から、宇宙の根源的な問いに少しでも近づくべく、今後もワクワクしながら研究を進めていきたいと考えています。
【関連ウェブサイト】
千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター