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九州大学 研究Discovery Saga
2026年10月5日

静水圧をリアルタイムに計測可能な高感度蛍光ナノセンサーを開発

深海や生体内の微小環境における圧力動態の解明に期待 先導物質化学研究所 福原学 教授

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
硬い膜を持つナノカプセルは優れた蛍光比の変化および蛍光寿命の変化を示し、深海生物や生体内の微小環境における圧力のモニタリングに有用。高解像度な蛍光寿命イメージング(FLIM)用プローブとして最適であることを発見
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学環境学数物系科学化学生物学総合理工工学総合生物農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
プログラミング/多環芳香族炭化水素/海洋/海洋科学/パルス/蛍光寿命/静水圧/ノイズ/宇宙科学/芳香族/励起状態/ピレン/自己組織/アニオン/機能性分子/高分子/芳香族炭化水素/深海底/ナノプローブ/ベシクル/蛍光観察/生体適合性/持続可能/紫外線/持続可能な開発/センサー/ナノサイズ/ナノ粒子/モニタリング/光プローブ/極限環境/ナノカプセル/生体内/機能性/炭化水素/微生物/生体組織/関節/組織化/微小環境/寿命/カチオン/プローブ/蛍光プローブ
2026.10.05 研究成果Life & HealthPhysics & ChemistryMaterialsTechnology

発表のポイント

カプセル膜の機械的強度(硬さ)によって、膜に埋め込まれた蛍光分子の光学的応答を精密にプログラミングする新手法を確立。
柔らかい膜を持つナノカプセルは、0.1〜50 MPaのメガパスカル領域において極めて高い水圧感度(比率計測)を示すことを実証。
硬い膜を持つナノカプセルは優れた蛍光比の変化および蛍光寿命の変化を示し、深海生物や生体内の微小環境における圧力のモニタリングに有用。高解像度な蛍光寿命イメージング(FLIM)用プローブとして最適であることを発見。

発表概要

 東京科学大学(Science Tokyo) 物質理工学院 材料系の水野隼斗助教と安楽泰孝准教授は東京農工大学の赤木友紀准教授、九州大学先導物質化学研究所の福原学教授らと共同で、ポリイオンコンプレックスベシクル(PICsome:ピクソーム、用語1)と呼ばれる高分子ナノカプセルの膜の「硬さ(架橋度)」を制御することにより、膜内部に組み込んだ蛍光分子のピレン(用語2)が示す光学的挙動をプログラミング(設計)して、メガパスカル(MPa)級の静水圧(用語3)を測定できる全く新しいセンサー「Pyr-PICsome」の開発に成功しました。
 本研究では、ナノカプセルの膜が柔らかいほど水圧変化に対して敏感に構造が変化し、ピレン分子同士が接近してエキシマ発光(用語4、約500 nm)を強めることを突き止めました。これにより、0.1〜50 MPaという深海や生体内環境に相当する圧力の変化を、光の波長比率として高感度かつリアルタイムに計測することが可能となりました。さらに、膜を硬くした設計では、圧力に応じた蛍光寿命の変化が顕著になり、背景ノイズ(生体特有の自家蛍光(用語5)など)を排除できる高度な蛍光寿命イメージング顕微鏡(FLIM、用語6)への応用にも適していることが判明しました。
 本成果は、水溶性と生物学的適合性を兼ね備えたうえに外乱の影響を受けにくいナノプローブ(ナノサイズの測定機器)として、深海微生物の生態解明や、組織浮腫・関節疾患といった圧力変化が関わる病態の微小環境における圧力分布など、海洋科学から医療・宇宙科学にいたる広範な分野に新たな測定パラダイムを切り拓くものです。
 本成果は、8月15日付(現地時間)の米国化学会誌「ACS Applied Nano Materials」に掲載されました。
図1 静水圧により蛍光が変化する「硬さ」の異なるナノ粒子



“Reproduced with permission from ACS Applied Nano Materials. Copyright: 2026 American Chemical Society.” https://doi.org/10.1021/acsanm.6c02728

用語解説

(1)ポリイオンコンプレックスべシクル(PICsome:ピクソーム):プラスの電荷を持つ高分子(ポリカチオン)とマイナスの電荷を持つ高分子(ポリアニオン)を水中で混合した際に、静電気的な引力によって自発的に自己組織化して形成される中空のカプセル状ナノ粒子。水溶性や生体適合性に優れ、内部や膜内にさまざまな機能性分子を搭載できる。
(2)ピレン:紫外線を当てると蛍光を発する多環芳香族炭化水素の一種。周囲の環境や分子同士の距離に応じて、異なる性質の光(蛍光)を放つため、環境の変化を読み取る蛍光プローブ(センサー)として広く用いられる。
(3)静水圧:水などの液体が静止した状態で、その中にある対象物に対して全方向から均等に掛かる圧力のこと。深海底などの極限環境だけでなく、細胞や生体組織の内部でも常に働いており、生命活動に影響を与える。
(4)エキシマ発光:光を吸収してエネルギーが高い状態(励起状態)になった分子が、別の同じ分子と一時的に結合して複合体(エキシマ)を形成し、それが元の状態に戻る際に放つ光。ピレンの場合、分子単独の時(単量体:約380 nm)とは異なる、より長い波長(約500 nm)で発光する。本研究では、水圧によってピレン分子同士が接近し、エキシマ発光が強まる現象を利用している。
(5)自家蛍光:細胞や組織に含まれるタンパク質などの生体物質が、光を吸収して自然に発する蛍光。通常の蛍光観察ではノイズとして測定の妨げになる。生体の自家蛍光の寿命は非常に短い(5ナノ秒未満)ため、本センサーのエキシマ蛍光(55〜75ナノ秒)とは「光っている時間」の差を利用して明確に区別できる。
(6)蛍光寿命イメージング顕微鏡(FLIM):蛍光物質に短いパルス光を当てて光り始めてから、その光が減衰して消えるまでの時間(蛍光寿命)を定量的に計測し、画像化する顕微鏡技術。蛍光の「強さ(明るさ)」ではなく「時間」を測るため、測定環境の乱れやノイズの影響を受けにくく、高解像度で正確なデータが得られる。

論文情報

掲載誌:ACS Applied Nano Materials
論文タイトル:A Programmable Nanovesicle Platform for Megapascal Pressure Sensing
著者:Mizuno, H.L.; Norimatsu, J.; Kinoshita, T.; Takechi-Haraya, Y.; Sakai-Kato, K.; Akagi, Y.; Fukuhara, G.; Anraku, Y.
DOI:10.1021/acsanm.6c02728
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