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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年10月5日

音波と電荷の波が生み出す電流

高感度ひずみセンシングへ道

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
温度依存性とモデル計算から、音響電流はひずみによる電気の流れやすさの変化に起因しており、その大きさは電荷密度波転移によって10倍以上大きくなることを実証
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学環境学数物系科学総合理工工学農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
電気通信/学際研究/電荷密度波/高周波/電気伝導度/表面弾性波/固体表面/センシングデバイス/層状物質/持続可能/温度依存性/持続可能な開発/電気伝導/電子状態/グラフェン/センシング/ひずみ/マイクロ/周波数/弾性波/機能性/スマートフォン
2026-9-30●自然科学系理学研究科教授新見 康洋

発表のポイント

結晶がひずんで電子が秩序化した状態である「電荷密度波状態」を示す層状物質を圧電基板上に転写し、固体中を伝わる音波の一種である表面弾性波を照射すると、電荷密度波転移に伴って大きさや符号が大きく変化する直流電流(音響電流)が発生することを発見。
温度依存性とモデル計算から、音響電流はひずみによる電気の流れやすさの変化に起因しており、その大きさは電荷密度波転移によって10倍以上大きくなることを実証。
高感度ひずみセンシングデバイスへの応用に期待。

発表概要

大阪大学大学院理学研究科物理学専攻の二階堂夏海さん(研究当時:博士前期課程2年)、川田拓弥さん(研究開始当時:日本学術振興会特別研究員PD、現在:東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻助教)、高田真太郎准教授、新見康洋教授、同先導的学際研究機構の近藤浩太准教授らの研究グループは、固体中を伝わる音波の一種である表面弾性波を用いて、電荷密度波状態を示す層状物質へ時空間的に変化するひずみを照射することで、音響電流と呼ばれる直流電流が流れ、さらに電荷密度波状態ではその大きさや符号が大きく変化することを発見しました。
表面弾性波は、圧電基板に交流電圧をかけることで発生でき、スマートフォン等の高周波フィルタとして広く応用されています。また、固体表面の状態に敏感であることから、センシング応用に向けた研究が盛んに行われています。
研究グループは、粘着テープを用いた機械的剥離法により、層状物質を劈開(特定方向に割ること)して薄膜化し、圧電基板LiNbO₃に転写しました。その後、LiNbO₃基板上に準備しておいた櫛形電極に交流電圧を加えることで、層状物質薄膜に表面弾性波を照射しました(図1左)。すると、層状物質薄膜中に音響電流と呼ばれる直流電流が流れることがわかりました。今回用いた層状物質は、ある温度以下で結晶がひずみ、電子が秩序化した電子状態である「電荷密度波状態」を示します。発生する音響電流の温度依存性を測定した結果、電荷密度波状態になると音響電流の符号が変化したり大きさが増大したりすることを発見しました(図1右)。
さらに研究グループは、実験結果とモデル計算を照らし合わせることで、音響電流の発生は層状物質がひずむことで電気の流れやすさが変化することに由来することを突き止め、電荷密度波状態ではその変化の大きさが電荷密度波状態になる前の10倍以上にも増幅されることを明らかにしました。この結果は、ひずみを用いた電子制御の研究を進展させ、高感度センシングデバイス応用への道を開くものです。
本研究成果は、米国科学誌『Physical Review B』(オンライン)に、Editors’ Suggestionとして、2026年9月30日(水)午前3時(日本時間)に公開されました。



図1. (左)圧電基板LiNbO₃上に転写された層状物質と、表面弾性波を照射するための櫛型電極の概念図。(右) NbSe₃における表面弾性波パワーで規格化した音響電流の試料温度依存性。140 K付近の電荷密度波転移温度で符号変化し、60 K以下の電荷密度波状態では音響電流が大きく増大している。

研究の背景

固体表面を伝わる音波である表面弾性波は、圧電基板へ交流電圧をかけることで簡単に励起でき、かつ波長がマイクロメートル程度と短いためにデバイスを小型化できることから、通信分野における高周波フィルタをはじめとして応用上非常に重要な技術です。
電気を流す物質に表面弾性波を当てると、表面弾性波の進行方向に音響電流と呼ばれる直流電流が流れることが知られています。近年では、特に層状物質の一種であるグラフェンにおける音響電流が盛んに研究されており、簡単な直流測定でグラフェンの状態が検出できることからセンシングへの応用が期待されています。
グラフェン以外の様々な層状物質でも音響電流は発生するはずですが、意外にもこれまであまり研究例がありませんでした。

研究の内容

研究グループは、電荷密度波転移を示す層状物質を機械的に剥離して薄膜を作製しました。その薄膜を圧電基板LiNbO₃上に転写し、さらに基板上に準備した櫛型電極に約300 MHzの交流電圧を印加することで、表面弾性波を層状物質薄膜に照射し、その時に発生する音響電流を評価しました。
図2に、電荷密度波転移を示す一次元鎖層状物質であるNbSe₃における結果を示します。表面弾性波を照射した時のみ、音響電流に由来する直流電圧が発生することがわかりました(図2左)。さらに、温度依存性を測定したところ、電荷密度波転移に伴って音響電流の大きさや符号が大きく変化することを発見しました。さらなる実験結果とモデル計算を組み合わせた解析の結果、音響電流は歪みによる電気伝導度の変化率を反映しており、その大きさは電荷密度波状態に転移する前と比較して10倍以上にものぼることを明らかにしました(図2右)。



図2. (左)櫛型電極に入力した高周波電圧の周波数に対し、音響電流由来の直流電圧の値をプロットしたもの。測定温度は50 Kで、赤は左から右、青はその逆向きに表面弾性波を伝搬させている。(右) NbSe₃における音響電流の温度依存性とモデル計算から求めた、ひずみによる電気伝導度の変化率を温度に対してプロットしたもの。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

層状物質に音波を照射することで、ひずみを利用した電子状態の研究がさらに進展することが期待できます。また、高感度ひずみセンシングデバイスへの応用など、機能性デバイスの創出が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年9月30日(水)午前3時(日本時間)に米国科学誌『Physical Review B』(オンライン)にEditors’ Suggestionとして掲載されました。
タイトル:“Significant modulation of acoustoelectric current associated with charge density wave transitions”
著者名:Natsumi Nikaido, Takuya Kawada, Koji Fujiwara, Jihoon Park, Nan Jiang, Kouta Kondou, Shintaro Takada, and Yasuhiro Niimi
DOI:10.1103/19zf-xskg
なお、本研究は、科学研究費(JP22KJ2180, JP22J20076, JP23H00257, JP23KJ1419, JP24K23028, JP25H01613, JP25H02122, JP25K17907)、JST創発的研究支援事業(JPMJFR2134)、東北大学電気通信研究所 共同プロジェクト研究の支援の下、行われました。

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